貴方を失って、一体どれくらいの時が流れたんだろう

あの時した、貴方との約束

まだ、果たされていない










Last quarter 4








「じゃあヨザック。次はここ、頼むな」
「はい。かしこまりました、陛下」





陛下に報告書を届け、少しの休暇をもらった後、俺はまた、諜報活動の日々に追われる。
陛下が仕事をこなせるようになってからは、人間との交流もだんだん深まっていき、魔族も
人間も、壁がなくなってきている感じだ。
でも、完璧に平和になったわけじゃなくて。
だから、俺の仕事もなくならず、俺は職を失うことなく、働くことが出来ている。
グウェンダル閣下は陛下の仕事がスムーズに進むようになってからは、簡単な補佐に回っ
た様子で仕事にゆとりが出来てきて、隊長はほとんどが陛下の護衛。時々、俺と一緒に任務
に向かう。ギュンター閣下は相変わらず汁を出しながら陛下の補佐をやっていて、数年前に
結婚したプー閣下は、旦那様である陛下とじゃれてて楽しそうだ。
グレタ嬢ちゃんもすっかり大人になって、今では誰もが振り向く綺麗な女性。陛下や閣下はその
たびに慌てていらっしゃる。







・・・・みんな、変わった。俺だって、昔とは違う。
昔みたいに危険な仕事をする機会はなくなったから、傷はすっかり減ってきたし、今では
血盟城にいることのほうが多いと言ってもいい。髪だって少し伸びたし、顔つきだって変わった。
あれからもう数十年とたっているんだ。誰だって変わる。







・・・・・だけど、俺の気持ちだけは、どうしても変えることが出来なかった。
あの方を失う前も、失ってからも、そして今も。
俺の気持ちは変わらない。
どんなにいい女が寄ってこようが、仲良くなった女性だろうが、恋におちることはなかった。
俺には、あの人しかいないんだ。









「さーて、と・・・・・今回は長くなりそうだな」
明日からの仕事は、少し長期戦になりそうだった。俺はそのための準備でもしようと、
町へと足を運んだ。
衣類や食糧を買い込み、適当に香水も購入した。女装する事もあるだろうから。
だけど、他に特にすることもなく、日が暮れる前には全ての買い物が終わってしまった。
特に荷物が重いわけでもないので、俺は血盟城とは正反対の方向へと向かった。





「んーっ・・・・やっぱりここは気持ちがいいな」
眞魔国が見渡せる、この丘の上。俺の秘密の場所だった。
・・・・いや。あの人と恋仲になってからは、二人の秘密だったか。
素敵だね、と喜んでくれたあの人の顔。俺は今でも忘れない。






「・・・・・・あれ?」
ぱたりと膝の上に雫が落ちる。頬に何かが伝う感触がする。俺はごしごしと目を擦る。
だけど、それは止まってくれない。
「・・・・なんで今更、涙なんか・・・・」








あの人がいないこの眞魔国にだって慣れたはずだ。
ずっとずっと、この数十年。俺はずっと過ごしてきた。
なのにまだ、涙が出るというのか。
「はは・・・・女々しいな」







やっぱり、慣れてなんかいない
慣れるわけがない
あの人が恋しくて、恋しくて、恋しくて
ありえないのに、また会いたいと願ってしまう






「っ・・・好きです・・・・・貴方が好きです・・・・猊下」
こんなに年月が過ぎても、貴方の笑顔が消えない。
貴方を思う、この気持ちが消えない。







ねえ、猊下。
俺、まだ覚えてるんですよ。
貴方との、最後の約束。










「会いにきてくれるって、言ったじゃないですか・・・・・」










たとえ、貴方じゃなくても
恋に落ちなくても









アイタイ













「・・・・・・こっちには、紅葉はないんだね」






『赤くて、とっても綺麗なんだ』





『いつか、猊下と見てみたいですね』





そうだ
もう一つ、約束したんだ








「今度、地球から持ってこようか」






・・・・知らない声。
ちょっと高めだけど、あの人とは違う声。
・・・・ああ、そうだな。
あの人じゃ、ないんだ。













だけど
















「ゲンキ?」






「・・・・・・はい」









貴方に会えて、よかった













いつも猊下が言っている「自分は大賢者じゃない」という言葉をテーマに話を作って
みました。
なんだか上手くまとまらなくて・・・・・こんな終わりになってしまいました。
多分、再び出会ったこの二人が、恋に落ちることはないんじゃないかな、と私的に
思います。
猊下が大賢者のときのことを話すように、再び出会ったこの少年も、村田健だった時の
ことを話すんじゃないかなって思います。
だから、この少年はヨザックにとって、心の拠り所・・・・といったところでしょうか。
なんて語ってしまいましたが、全部私の妄想なんで、皆様ご自由にこの続きを考えて
みてくださいませ。






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