Desire like breaking 8
俺は次の日も、いつもと変わらず執務に追われていた。
ただ、昨日はさすがにやりすぎたせいか、ヴォルフラムは俺の部屋で眠っていた。
周りには風邪ということで通したけど、多分・・・・いや絶対本当の理由は気づかれてる。
昨日、あれだけ見せつけてしまったんだから当然か。
「陛下、次の書類です」
「え〜、また?まだ前のも終わってな・・・・・」
俺は言葉を止めた。そこにいたのはいつも書類を持ってくるギュンターじゃなくて、コン
ラッドだった。
「どうぞ、陛下」
「あ・・・・・ありがとう」
俺はおずおずと手を伸ばす。書類を受け取ると、コンラッドはにこっと笑って一礼して
背を向けた。
「あ、ちょっと待って!」
俺はコンラッドを呼び止める。コンラッドはゆっくりと俺の方を向いた。
「なんでしょう?」
「あ・・・・・・あの、さ」
「はい」
「えっと・・・・・・ヴォルフラムから聞いた。お前とのこと」
「・・・・・・・・・」
「その・・・・・・ごめん」
「何がですか?」
「何がって・・・・・・だから、ホラ・・・・・・・」
俺が言葉に迷っていると、コンラッドはまたにこ、と笑った。
「俺は、弟をお預かりしてただけですよ」
「え?」
「弟が婚約者と喧嘩をしていて寂しそうだったので、一緒にいただけです。別に兄弟なん
ですから、行き場のなくなった弟の面倒くらいは見ますよ」
「コンラッド・・・・・・・」
「迷惑はかけられてませんから、別に陛下の気にすることではないですよ」
コンラッドはそう言ってにっこりと微笑む。優しく微笑んだ笑顔を見て、俺も笑った。
「じゃあ・・・・さ」
「はい?」
「ありがとう」
「・・・・・はい。その言葉ならありがたく受け取っておきますよ。陛下」
そう言うと、もう一度頭を下げて、部屋を出て行った。
「ありがとな・・・・コンラッド」
ありがとう。ごめん以外の言葉なんて、それしか思い浮かばないようなへなちょこだけど。
それが俺にとっての精一杯の言葉なんだ。
こんこん、とドアがノックされた。一体誰だろう。俺が返事を返すと、ドアが少し開いて
ぴょこりとヴォルフラムが顔を出した。
「・・・・・ゆぅり?」
「ヴォルフ。どうしたんだ?部屋で休んでなきゃダメだろ」
俺がそう言うと、少ししゅんとした顔で中に入ってくる。
うっ、可愛いじゃないか。し、しかもネグリジェのまんまだし。俺はため息をついて、
自分の服を脱いでヴォルフラムの側に歩み寄り、ばさりと着せた。
「こ、こらっ、ユーリ」
「ん?」
「臣下が王の服を借りられるかっ」
「いーんだって。そんなカッコでいると風邪引くだろ。それに、臣下とか何とか言う前に、
ヴォルフは俺の婚約者なんだしさ」
俺がそう言ってぽん、と肩を叩くと、ヴォルフラムはかあっと顔を赤くした。
・・・・・・あれ?そういえば・・・・・・・・
「・・・・・・・あ」
「え?」
「そういえば・・・・・・・・俺たち、婚約解消した後、何にもしてなかったよな」
「なんにも?」
「だから・・・・求婚。俺からまたしてなかったなって思って」
色々あってすっかり忘れてた。
一回婚約解消したからな。ってことはもう一回ヴォルフラムの頬を叩かなきゃいけないわけ?
あの時はムカついて叩いたから別にいいんだけど・・・・ヴォルフラムの白くて綺麗な頬を叩くの
は抵抗がある。俺が迷っていると、ヴォルフラムがああ、と呟いた。
「そのことなら問題ない。さっきギュンターに国民に触れを出しておいてくれと頼んでおいた」
「へ?」
「婚約したって言う触れだ」
「え、え?でも・・・・・・・」
「したじゃないか、昨日」
「し、したっけ?」
「なんだ、忘れたのか?思いっきり引っ叩いただろう?・・・・僕が」
「・・・・・・あ!」
思い出した。昨日ヴォルフラムに引っ叩かれたんだ。しかも二回も。
「ってことは・・・・・・・」
「勿論、僕からの求婚、ということにしておいたぞ」
「げっ・・・・」
そりゃ、俺もヴォルフラムも男だけど・・・・・俺も一応プライドってものが。
一応男だし。相手からの求婚っていうのも嫌じゃないけど・・・・やっぱり自分から求婚したい。
「げっとはなんだ!僕との婚約が嫌なのか!!」
「あ、ち、違う違う。そうじゃなくて・・・・」
俺はうーん、と考え込んで額をかいて、くるりと背を向けるとイスに座った。
ヴォルフラムが首を傾げたので、俺はおいでおいで、とヴォルフラムに向かって手招きした。
きょとんとしながらも、ヴォルフラムは素直に俺のところに来る。俺はヴォルフラムの腕を
引いて、とすん、と膝の上に乗せた。
「ユーリ?」
「あのさ。やっぱり俺からの求婚にしたいんだけど」
「無理だ。もう僕が先に頬を叩いたんだからな」
「いや、そうじゃなくて・・・・・・・・この国の方法じゃなくて、俺の国の方法」
「ユーリの国の?」
「そう。俺の国じゃさ、頬を引っ叩いて求婚、なんてしきたりはないからさ。俺の国のしき
たりでヴォルフラムに求婚しようと思って。それだったら俺からも求婚したって形になるだろ?」
「う・・・・まあ、そうなるかもしれないけど」
「じゃあ、求婚してもいい?」
「・・・・・求婚する前に、求婚してもいいかなんて聞くな、ばかっ」
「あ、それもそうか」
俺はクスクスと笑うと、ヴォルフラムの額にちゅっとキスをした。そして恥ずかしそうに頬を
染めたヴォルフラムの手を取って、左手の薬指にキスをした。
「・・・・・俺と、結婚してください」
「・・・・・・喜んで」
飽きるほど抱きしめて、飽きるほどキスをして
壊れるほどの思いを贈って
ずっとずっと、一緒にいよう
どんな宝石よりも綺麗で、誰よりも可愛くて大切にしたい
たった一つの宝物
完結でございます。ここまでお付き合いくださって、本当にどうもありがとう
ございました。
途中シリアスでしたが、ラストはやっぱりハッピーエンドで、ということで、
かなり甘くしてみました。
コンラッドとヴォルフラムの、原作の微妙な仲をどんな風に表現しようかと、
ずいぶん考えました。
ヴォルフラムはいつも離せとか気安く触るなとかそういうことを言っているけれど、
小さい頃はやっぱり仲のいい兄弟だったわけだし・・・・なんて色々考えながら、あの
ような関係にしてみました。
書いてて辛いものはたくさんありましたが、最後まで書けて本当によかったです。
亀のようなのろさの更新でしたが、ここまで読んでくれた皆様に、感謝の気持ちで
いっぱいです。
ありがとうございました。

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