Moment to Shine
キンモク星から帰ってきたのはいいが、スリーライツとしては引退していて、収入源がない。
現実的な話、バイトでもしないと過ごしていけない。
「で、何のバイトするの?」
うさぎが聞くと、星夜はうーん、と唸った。
「正直、ぜんぜん思いつかない・・・・何をしようにもピンと来なくてさ」
「音楽活動は再開しないの?」
「冗談。せっかく帰ってきたって言うのに、またあの忙しい日々に逆戻りなんてごめんだよ。それに・・・・」
星夜は静かに手を伸ばし、うさぎの手をぎゅっと握った。
「えっ・・・・」
「・・・・・折角帰ってきたのに、おだんごと二人きりの時間が過ごせなくなるなんて、嫌だしな」
星夜の言葉に、うさぎはかああっと顔を赤くした。
星夜の言葉は、いつ聞いても心臓に悪い。少し低めの色っぽい声、すっと流れるような瞳。
見つめられると、もう目が離せなくなる。
「・・・・とはいっても、仕事しない限りはどうしようもねえし・・・・・はぁ」
バイト情報誌を眺めながらため息をつく。うさぎはその隣でそれを見て、考え込んだ。
「・・・・・でもさぁ」
「ん?」
「やっぱり私は、星夜はアイドルやったほうがいいと思うな」
「え?何だよ、それ。お前、俺と一緒にいたくないの?」
「そ、そうじゃないよ!ただね・・・・・」
うさぎは慌てて手を振った。
「ただ・・・・・星夜はさ、歌を歌っている時が、一番輝いて見えるんだもん」
「え・・・・?」
星夜がきょとんとすると、うさぎは照れたように笑って頬をかいた。
「ホントだよ?お芝居してる時も、ミュージカルやってた時も、もちろん・・・・歌ってた時も。星夜は誰よりも輝いてた」
「・・・・・・・・」
「確かに歌は、プリンセスを探すために歌ってたのかもしれないけど・・・・私はそれを抜きにしても、歌ってる時の星夜は、
ホントに輝いてて、そして楽しそうに見えたんだ」
「おだんご・・・・」
「別に、強制してるわけじゃないんだよ。でも・・・・あたしはまた、星夜が輝いている瞬間が見たいな」
にこ、とうさぎが笑うと、星夜はガシガシと頭をかいて、はあ〜と深いため息をついた。
「ホント・・・・なんていうかさ。おだんごって俺のツボ、確実に突いてくるよな」
「ほえ?」
「・・・・・俺の気持ちまで、理解してるっていうかさ・・・・」
「・・・・・星夜?」
うさぎは首を傾げる。すると星夜は苦笑して、ポンッとうさぎの頭を叩いた。
「わかった。一人でどこまで出来るか分からないけど・・・・お前がそう言うなら、頑張ってみるよ」
「ホント?」
「ああ。その代わり、ちゃんと応援してくれよな」
星夜が笑ってウインクをすると、うさぎはぱっと満面の笑顔を見せた。
「うん!頑張ってね、星夜!」
ドキッとときめく笑顔。星夜はそれに見とれると、うさぎの手首をぎゅっと取った。それに気づいて、星夜の顔を見上げる。
すると、ゆっくりと顔が近づいてきて、唇が重なった。
「ん・・・・」
「・・・・・な、おだんご」
「・・・・なぁに?」
「俺さ・・・・前は、プリンセスの為に歌ってたけど・・・・・」
「・・・・・星夜?」
うさぎがきょとんとすると、星夜は苦笑して、うさぎを抱きしめた。
「・・・・・なんでもない」
ただ一言そう言うと、星夜はうさぎの髪の毛に顔を埋めて、幸せそうな笑顔を漏らした。
2
星夜がソロで音楽活動を再開するというニュースは、瞬く間に広がっていった。
そして事務所側がその多すぎる問い合わせに、緊急会見を開くことにした。
うさぎたちはそれを少しでも近くで見たくて、関係者に変装してバレないように最後尾でこっそりと見ることにした。
「ほんっと、星夜君がソロで活動を再開するなんてびっくりよね!」
「でも、アイドルでこれだけ大きな記者会見って言うのも珍しいわよね」
「当ったり前よ!スリーライツは日本・・・ううん、世界にも通用するアイドルなんだから!」
美奈子はこぶしを握って熱弁する。あはは・・・と苦笑すると、記者会見が始まった。
星夜は大勢の記者に囲まれて、カメラのフラッシュを浴びていた。
「今回、ソロとして活動をするということですが、その意図は?」
「意図なんて別にありません。ただ単に、大気も夜天も遠くに行っていて俺と一緒にスリーライツとして活動することが
出来ない。それだけです」
「スリーライツの時は、大気さんが作詞、作曲をしていたようですが、ソロ活動になった今、どうされるんですか?」
「そうですね・・・・まだ考えていませんが、一つ言えるのは、作曲は無理ですね。俺、そういう才能がないんで。でも・・・
作詞は、俺がすると思います。やっぱり自分の気持ちを伝えるなら、自分で作詞をして伝えていきたいですから」
「では、その伝えたいこととは何ですか?」
「それは、一言では申し上げられないですね。ただ、自分の歌を聞いて、何かを感じてほしいと思っています」
記者の質問に的確に答えていく星夜を見て、うさぎは目をぽーっとさせた。そんなうさぎの視線に気づいたのか、星夜が
うさぎの方を向く。うさぎはばれた、と思ってギクッとした顔を見せるが、星夜はにっと笑うだけだった。
「それでは星夜さん、ソロとして活動することを思ったきっかけなどを教えていただけますか?」
「きっかけですか?・・・・そうですね・・・・」
初めて何かを考え込む仕草を見せる。そしてにこ、と笑って答えた。
「ある人に言われたんです。自分は、歌を歌っている時が一番輝いて見えるって。俺は、誰よりも輝いていたい。
そして、俺自身を分かってほしい。彼女は、そんな俺を分かってくれた。だから、音楽活動を始めようって思ったんです」
「・・・・・その、ある人とは、星夜さんにとってどういう人なんですか?」
記者の一人が聞くと、星夜は誰もが見惚れる笑顔を見せた。
「大切な人ですよ。俺にとっては、誰よりも」
星夜のその一言で、ざわっとざわめきがたった。後ろの方で聞いていたうさぎたちも例外ではない。
そして、その張本人であるうさぎは、耳まで真っ赤にして固まっていた。
「星夜さん!その方について一言お願いします!!」
「どういったお方なんですか!?」
一気に騒がしくなった会場内。星夜付のスタッフが、慌てて星夜を下がらせ、マスコミを抑える。うさぎ達もそのどさく
さに紛れて、何とか会場内から出ることが出来た。
3
「星夜君って、大胆・・・・」
「ホント。あんなこと言えば大騒ぎになるだろうってこと、分かってるはずなのにね」
感心したような呆れたような顔で、美奈子達はため息をついた。そして、未だに黙り込んだままのうさぎの方をチラッと見る。
かわいそうなくらいに真っ赤になって、頬を抑えていた。
「・・・・やっぱり、あれうさぎちゃんのことか」
「他にいないでしょ」
「・・・・でも、ちょっと羨ましいかも・・・・・」
「確かに・・・・」
4人はうんうん、と頷いた。すると、ぴりりと携帯の着信音がする。誰だと顔を見合わせると、うさぎが慌ててポケットから
携帯を取り出した。
「うさぎ、携帯持ってたの?」
「あ・・・う、うん。この前星夜が買ってくれたの」
そういって通話ボタンを押す。電話の相手はもちろんあの人。
「星夜!」
『よ、おだんご』
「よ、よじゃないよ!あんたばっかじゃないの!あんな大勢のマスコミの人たちの前で・・・・」
『だってちゃんと言っといた方がいいと思ってさ。スリーライツの時はそういうことにうるさい大気がいたから言えなかったけど、
今なら別に問題ないだろ?ま、予定もなくあんなこと言ったから、事務所には大目玉食らっちまったけどな』
「あ、当たり前でしょぉ!もぉ・・・・・」
『嫌だったか?おだんご』
そう聞いてくる星夜だが、きっとうさぎの気持ちなど分かっているのだろう。声が悪戯っぽい。
そんな星夜に腹が立つが、うさぎは顔を真っ赤にしたまま首を横に振った。
「・・・・・やじゃ、ない・・・・・」
『ホントに?』
「・・・・・ホントだよ。嬉しかった・・・・・」
『・・・・・・そっか。じゃ、よかった』
「でも、星夜は大丈夫なの?あんなこと言って・・・・・」
『へーきへーき。事務所側は色々文句言ってるけど、その分仕事で取り返すしさ。もしうるさく言ってきたら事務所変わって
やるって脅してやるよ』
「・・・・もう、星夜ったら」
うさぎはおかしそうにクスクスと笑う。うさぎの笑い声を電話越しで聞いて、星夜も笑った。
『・・・・・・おだんご』
「なに?」
『今日は、おだんごの名前、出さなかったけどさ・・・・・』
「・・・・・?」
うさぎはきょとんとした顔を見せる。そんなうさぎを見越して、星夜はゆっくりと口を動かした。
『・・・・・・・・って、ことだから。じゃあな』
ぴっと携帯が切られる。
しかし、うさぎは携帯から耳を離すことはなく、ただ呆然としていた。
まったく動くことのないうさぎを不思議に思って、美奈子達は近づく。
「うさぎちゃん?どうしたの?」
「・・・・・・」
何も答えない。4人は顔を見合わせると、ひょこ、とうさぎの顔をのぞいた。
「う、うさぎちゃん!?」
顔をのぞいた瞬間、4人は驚いた声を上げた。
うさぎは先ほどよりも顔を真っ赤にしていて、震えていた。
「ちょ、ちょっとうさぎ!いったい星夜君になに言われたのよ!」
「・・・・ふにゃぁ・・・・・」
へなへなとその場にしゃがみこんでしまったうさぎの耳には、先ほどの星夜の言葉だけがぐるぐると回っていた。
『いつか必ず、お前が俺の恋人だって世界中に伝えてやる。
その時は、お前が嫌だって言っても攫って行くから・・・・覚悟しろよ』
嫌だ、なんて言うはずないよ
ただ一人、貴方にだけならどこに連れ去られても平気なの
きっと、甘い甘い貴方の声に縛られて、どこにも行けなくなるから
ずっとあたしの傍にいて
FIN
副題:「星夜君のプロポーズ」(笑)
星夜だったらきっと、歯が浮くような素敵なプロポーズをしてくれるはずです。
そんな台詞が思い浮かんだらイイナ・・・・(遠い目)