隣でおねむ
「・・・・あらら?」
ふとリビングの方を見てみると、珍しい光景が見れた。
黒鋼が、ソファーに座って眠っている。
いやもちろん、人間なんだから眠ることもあるだろう。
しかし、こんな風に無防備に眠っているのは初めて見たような気がした。
「普段はあんななのに、寝顔は結構可愛い顔してるんだよね〜」
クスクスと笑うと、起こさないようにそっとリビングを出た。するとちょ
うど廊下を歩いてきた小狼とサクラ、モコナと会う。
「あ、ファイさん。今、何か手伝うこととかありますか?」
「ん?ん〜、そうだねぇ。じゃあ買い物に行ってきてくれないかなあ?食
パンと醤油と・・・・ああ、あとお茶っ葉も切れてたっけ。紅茶の葉、買って
来て?」
「はい、わかりました」
「ゆっくりしてきていいよ。ついでにデートでもしてきなさい。お兄さん
許しちゃうから」
こそっと小狼の耳元で言うと、小狼はぼんっと真っ赤になった。そして
クスクスと笑いながら小狼たちを見送り、ファイはくりっと背を向けた。
「俺も、ずるいなぁ」
小狼君のため、みたいに出かけさせたけど。
そうじゃないんだよね
これは自分のためなの。だって
「黒みーのあんな寝顔、他の誰かに見せたくないんだもん」
ひょこっとリビングに顔を出してみる。そして黒鋼がまだ眠っているのを
見ると、ホッと息を吐いた。
そしてふふっと笑うと足音を立てずにそっと、黒鋼の隣に座ってみる。
しかし、やっぱり黒鋼は起きない。ここまで熟睡するのも珍しいと思いな
がら、黒鋼をチラッと見た。すると、黒鋼の体がぐらっと揺れて、ぽすん
とファイの頭に寄りかかった。
「はにゃ?」
これまた珍しいことだ。この敏感な忍者は、眠っている時に体が人肌に
触れると、必ず目を開ける。忍者の基本だ、と言っていた。
それなのにここまで触れていて起きないなんて。よほど疲れているのか・・・
それとも。
「・・・・側にいるのが俺だから、安心して眠れるの?」
ポツリと呟いてみる。黒鋼の頬が自分の頭に乗っているため動かせないの
で、目線だけ上に向けてみた。
しかし、黒鋼の返事はない。上からはスースーと言う寝息だけが聞こえて
くる。それが耳によく届いてきて、ファイはどきん、と顔を赤くした。
「や、やだ、なんかドキドキしてきちゃった」
かああ、と顔を赤くして、頬を抑える。そして少し拗ねたような顔で黒鋼
の着物を握った。
「黒みーのせいなんだから」
たったこれだけのことで、こんなにドキドキしちゃうのは
君を、好きになっちゃったから
「だからちゃんと、責任取ってよね」
こんなに俺を好きにならせた君の責任なんだから
まあだけど
もちろん嫌な訳じゃないんだけどさ
「やっぱり、好きだなぁ・・・・」
「何がだ?」
「そんなの決まってるよぉ、それはぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
はた、と目を開けて、恐る恐る上を向いてみると、パッチリと目を開けた
黒鋼がじっとファイを見つめていた。
「お、起きてたの!?」
「今起きた」
ふわ、とあくびをすると、ファイは顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かす。
「あ、あの・・・・まさか、聞いて・・・・・」
「は?」
「い、いやその・・・・ち、ちなみに、いつ起きた?いつから俺の言葉聞いてた?」
「だからちゃんと責任とって・・・・・・の辺り」
「・・・・そ・・・・そう」
とりあえず最初の部分は聞かれてないと分かり、ファイはとりあえずホッ
と息を吐いた。
しかし
それは甘いことだと言うことをすっかり忘れていたのだ。
「で?」
「ほえ?・・・・・にゃっ!」
ぼすっとソファーに押し倒されて、ファイは驚いて素っ頓狂な声を上げて
しまう。
「お前は一人で何ぶつぶつ言ってたんだ?」
「え、ええ〜と・・・そ、そんな大したことは・・・・・」
「だったら話せ」
「そ、それはちょっとぉ・・・・」
えへへ、とファイが引きつった笑顔を見せると、黒鋼はにや、と笑った。
「言わないんなら体に聞・・・・」
「い、言います言います!全部白状します!」
するりとズボンの中に手が入りそうになったので、ファイは慌てて首を
振って叫んだ。
そしてその後、全てを白状させられたファイが、「じゃあ責任とってやる
よ」と不適に笑われて、黒鋼に美味しくいただかれてしまったことは、
もはや言うまでもない。
でもまあ、その後に黒鋼が自分の隣でゆっくりと眠ってくれるなら
それはそれで悪くないかなって思った。
FIN
黒鋼はヘタレだけど、時に強気。
だって男前ですもん。