特別甘いお返し
「黒鋼さん、ホワイトデーどうします?」
「はあ?」
小狼の言葉に、黒鋼は顔をしかめた。
「先月、ファイさんにもらったでしょう?バレンタインに。あれから一ヶ月たったから・・・・
明日、お返しの日なんですよ。俺も、姫に・・・・」
「・・・・・・ああ、そんなこともあったな」
「それで・・・・考えたりしてますか?」
「全然」
スパッと切り捨てられて、小狼はガクッと肩を落とした。
「別にいいだろ、んなもん渡さなくても」
「だけど・・・・やっぱり礼儀ですし」
「ったく・・・・めんどくせえな」
黒鋼は億劫そうに、くしゃくしゃと髪をかき回す。そしてがたんと音を立てて立ち上がり、
部屋を出て行った。
「あっ、黒鋼さん・・・・・」
止める暇もなく出て行かれてしまい、小狼は困ったように頬をかいた。
「おい」
「んー?」
台所で洗い物をしていたファイに近寄り、黒鋼は声をかけた。
「ほしいのか?」
「何を?」
「お返し」
「なんの?」
「バレン・・・・なんとかっていうやつのだ」
「・・・・ああ、あれ」
思い当たったように、ファイは皿を拭く手を止めた。
「ん〜、くれるなら嬉しいけど、くれないなら別にくれないでもいいよ。そもそもさー、
黒りんにそういうのの期待とかって全然してないから」
あはは、と笑って手をパタパタ振る。その態度にムカッとした黒鋼は、ファイの腕をグイ
ッと引っ張る。きょとんとした顔でファイが黒鋼を見上げる。
しかし、この後どうするか全く考えていなかった黒鋼は、ファイの綺麗な瞳に見つめられ
てぎしっと固まる。
「黒みー?」
「あ・・・・いや、その」
「どーしたの?っていうか、洗い物出来ないから離してくれるー?」
にこぉ、と笑ってファイが言うので、黒鋼は思わずぱっと手を離す。
「あはは、変な黒ぷーだね。そんなにお返しが気になるー?だったらほっぺにキスでもいーよ?」
「はあ?」
「気持ちがこもってればね、何でもいいよ。黒りんの愛のキス、ちょーだい?」
意地悪っぽく微笑んで、黒鋼の首に手を回す。
この顔はからかっている顔だ。黒鋼もいい加減学習した。天使のような顔をしながら、さら
りとこういうことを仕掛けてくる。黒鋼が嫌な顔をして出来ないと思っているのだ。
相手がその気なら。黒鋼はがしっとファイの肩を掴んだ。
「へ?」
ファイがきょとんとしたのと同時に、黒鋼はファイの頬に口付けた。
唇を離してファイを見下ろすと、ファイはぽかんとした顔で黒鋼を見上げていた。
「・・・・黒りん・・・・」
「・・・・確かに返したぞ。じゃあな」
スッとファイを離すと、黒鋼はその場を後にした。
ファイは呆然とした顔でその後姿を見送ると、ゆっくりと黒鋼に口付けられた頬を押さえた。
そして一気にぼふっと耳まで真っ赤になると、へたりとその場にしゃがみこんだ。
「・・・・ずるーい・・・・」
今までにされたどんなキスよりも、今のキスがすごく恥ずかしかった。
だけど、それ以上に嬉しかった。
「黒様のくせに反則だよ。今日は思いっきり甘いご飯を作ってあげよっとvv」
嬉しそうにそう呟くと、黒鋼専用の昼食の用意をしようと、材料を手に取ったのだった。
FIN
ヘタレ黒鋼大好き(おい)
っていうか、攻めはヘタレ上等ですよね!
でも、決めるときはバシッと決めます。