下がりの天気







「今日は天気がいいねぇ」
グラスを拭きながら、ファイは窓の外を眺めた。
「なんだ、急に」
「んーん、特に何でもないよ。ただ、お天気がいいなぁって」
「・・・・・ふん」
黒鋼はぷいとそっぽを向いて、剣の手入れを続ける。興味のなさそうな顔をしている黒鋼を
見て、ファイはクスクスと笑った。
「なんだ」
「んー?だから何でもないってば」
「何でもないんなら意味もなく笑うのはやめろ。気色悪ぃ」
「あー、ひっどーい。黒むーってば」
クスクスと笑って、グラスを食器棚に戻した。そして布巾を干すと、ちらっと黒鋼を見た。




「・・・・・ねえ、黒りん」
「あ?」
「・・・・・・そっち行っていい?」
「・・・・・・・好きにしろ」



ぶっきらぼうにそう言うと、ファイはぱっと嬉しそうな顔をした。そしてエプロン姿のまま、
とててっと黒鋼の所まで走り、ちょこんと黒鋼の隣に座った。




「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」




ファイが何も話さなくて、変な沈黙が出来る。別に何も話さなくてもいいが、いつもはぺら
ぺらと話すファイがこうも静かに隣に座っていると、なんだか少し落ち着かなかった。
「おい、お前・・・・・・」
黒鋼は剣の手入れをする手を止めて、くるりとファイの方を向く。すると、ファイの体が
ゆらりと揺れて、黒鋼の腕にぽてん、と倒れこんだ。
「・・・・・・あ?」
目を細めて見てみると、ファイはスースーと寝息を立てて眠っていた。
それはもう、気持ちの良さそうに。
「・・・・・こいつ」
人の腕を枕にしやがって、と眉間に皺を寄せる。すると、ファイがむにゃむにゃと目を
擦る。起きたのかと思ったが、ふにゃふにゃと手を下ろすと、またすやすやと眠ってし
まった。
黒鋼はガシガシと頭をかいた。そして剣を適当な所に立てかけて、ファイの頭を乱暴に
ならないように引いて自分の膝へと置いた。






「・・・・・・今日だけだからな」
呟くと、ファイの少しは寝ている髪に指で触れた。すると、ファイはむにゃむにゃと反応
する。しかし、すぐに幸せそうにすやすやと眠ってしまうのだ。黒鋼はそんなファイを
見て、軽くため息をついた。
「・・・・まるで猫だな」
呟くと、窓の外を見てみる。
ああ、そういえば天気がよかったな、と黒鋼はそんなことを思いながら目を閉じた。








そして買い物から帰ってきた子供達が、ソファーで眠っているお父さんとお母さんを見て、
邪魔をしないようにとしーっと声を潜めながらそっとその場を離れたという。












FIN

夫婦の日常第2弾。
ファイの隣なら無防備に眠る黒鋼さん&ファイさんLOVEvv