祝い事
目の前に広がる料理。テーブルの墨から隅まで置かれていて、どこに隙間があるんだと
言いたくなるくらいの大量の料理。
その料理を見て、俺だけじゃなく小僧や姫も目を開いて驚いた顔を見せている。
「あの・・・・ファイさん?」
「んー?」
「これ、一体どうしたんですか?」
「えへへー、今日はお祝いだからちょっと豪勢にしてみたんだよー」
「お祝い?なんのですか?」
「いいからいいからーvホラ、食べよー」
全員を席に着かせ、いただきまーすとのんきに言う。
・・・・おい、皿をどこに置けばいいんだよ。
■ □
「おい」
「んー?」
濡れた金色の髪の毛を拭きながら、俺の方を振り返る。
そしてへらっと笑うと、俺が座っているベッドの隣に座ってくる。
「あの料理・・・・・一体どうしたんだ?」
「えー?だから言ったじゃない、お祝いだって」
「だから!何の祝いだって聞いてんだよ!!」
ああ、畜生。イラついて、つい大声出しちまった。まあ・・・・こいつは全く気にしてねえ
みたいだけどよ。
「黒りん、覚えてないのー?」
「・・・・あ?」
「ちょっとショックかもー」
・・・・なんなんだよ。今度は急に俯きやがって。
・・・・ああ、クソ。これじゃ拉致があかねえ。
「うひゃっ!?」
間抜けな声が聞こえる。まあ、俺が急に腕を引っ張って、後ろから抱きしめてやったん
だから当然か。
「く、黒りん?」
「はっきりいわねえんなら、このままするぞ」
「へっ?あっ、ちょ、ちょっと待ってぇ」
じたばたと暴れて抵抗する。んなことしたって、俺に力で適うわけねえだろ。
軽くため息をついて、こいつの服の下に手を入れてみる。
「やっ・・・・黒ぴーのえっちー」
「だったらはっきり言え」
「うー・・・・ホントは黒りんに思い出してもらおっかなーって思ったんだけど・・・・しょう
がないか」
「あ?」
「そもそも、黒ぽんが覚えてるわけないし、思い出せるわけもないもんねー」
「・・・・おい」
喧嘩売ってんのか?
俺の機嫌が悪くなったのが分かったのか、少し慌てたような顔を見せると、俺の掌に
唇を落としてきた。
「あのねあのね、今日は俺と黒りんが出会った日なの」
「・・・・・・は?」
「だからぁ、1年前の今日、俺と黒みーが出会ったの。覚えてない?」
「・・・・・全然」
「やっぱり」
もう、といいながらため息をつく。
いや・・・・俺がんなこと覚えてるわけないだろう。第一・・・・・
「第一、黒りんが覚えてたら気持ち悪いもんねー」
・・・・ありがとよ、代弁してくれて。
「まあそういうわけだから、ちょっと懐かしくなって、いっぱい料理作りすぎちゃった
の。美味しくなかった?」
「いや」
飯が不味いってわけじゃない。わけじゃないが・・・・
「うひゃんっ!」
さっきより間抜けな声がした。そして、俺が唇を落とした耳を押さえて、真っ赤な顔で
振り返る。
「なにすんのぉ」
「相変わらず、ここ弱いな」
「何言って・・・・・やっ」
「ちょうどいい体制だし、このままヤる」
「え、ええっ!?さっき俺、素直に話したでしょー。何でそうなっちゃうの?」
「離したらやめる、なんて言ったか?」
「・・・・ずるーい」
膨れっ面で、俺の手を掴んでくる。何だ、そんなに嫌だってのか?
「俺が、断るなんて思ってないでしょ?」
「・・・・・違うか?」
「・・・・違わないけど」
顔を赤くしたまま黙り込む。
ああ、全く。
祝い事だとか何とか言って料理を用意したり、女みたいなことだけど、こいつだと妙に
似合っちまうんだよな。
はっきり言って・・・・・
「あんまり可愛いことするんじゃねえよ」
「・・・・ほえ?」
一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに意味が分かったのか、ぼんっと音がなったみた
いに真っ赤になった。
「く、黒りんがそんなこと言うなんて・・・!!」
「なんだよ」
「ダ、ダメーっ!黒りんはそんなかっこいいこと言っちゃダメなのー!!」
「はあ?なんだそれ」
「だ、だって、だってっ・・・・」
何だ、泣いてんのか?顔を覗き込もうとしたら、潤んだ瞳で睨んできた。まあ、怖くね
えけどな。
そう思ってると、すぐにまた顔を逸らして俯いた。
「ドキドキ、しすぎてどうにかなっちゃうじゃないっ・・・・」
・・・・ああ、そういうことか。
つまり、照れてんだな。
俺がそう言うと、ポカポカ殴ってきやがった。
ああ、はいはい。いくらでも気が済むまで殴れ。
まあそのかわり、こいつの気が済んだら思い切り抱きしめてやろう。
今日はなんだか気分がいいからな。
FIN
本館での一周年記念お礼小説です。