「好きです」
綺麗で、とてもまっすぐな瞳に射抜かれながら言われた言葉。
俺はすで目を丸くして、持っていた本をばさりと落としてしまった。
ゲームスタート
「・・・・・・・はい?」
「好きです」
「・・・・・俺?」
「はい」
「・・・・・・小狼君が?」
「はい」
「・・・・・・・・」
言葉が出なかった。
え。なに?彼は何を言っているのだろう。
彼は男で、俺も男。しかも年だって相当離れている。
いやいや、それ以前に。彼は一緒に旅をしている可愛らしいお姫様のことが好き
だったのではないのだろうか。
あ、もしかして家族愛?
「言っときますけど、家族みたいに好きって意味じゃないですよ」
先に否定されてしまった。
「それって・・・・恋愛感情?」
「はい」
「俺のことを、小狼君が?」
「はい」
「・・・・・・・・・・・・・・まさかぁ」
最終的に出た答えがこれだった。いや、これしか思い浮かばなかった。
だって、信じられなかったから。
「嘘じゃないです。俺は、ファイさんが好きなんです」
「・・・・・・サクラちゃんはどうしたの?」
「サクラのことも好きです。小さな頃から育ってきた、家族みたいな人だし、
彼女は、俺に居場所を与えてくれた。大切な人です。でも、ファイさんを想う
気持ちとは違うんです」
「・・・・・・・・」
言葉が、出なかった。
一体何を言ったらいいのか分からなかった。
呆然としていると、小狼君は笑った。
「いいんです。ファイさんに好きな人がいるっていうのは知ってるから」
「え?」
「返事はいりません。ただ、俺の気持ちを貴方に伝えたかった。ただそれだけの、
身勝手な想いです。ごめんなさい」
「身勝手なんて・・・・・」
「ただ伝えたかったから伝えた、なんて、身勝手もいいところでしょう?でも、
俺にはこうすることしか出来なかった。貴方への気持ちに区切りをつけたかった」
「・・・・区切り?」
「だって、貴方には想い人がいるのに、俺なんかが貴方を想っていたら、貴方に
迷惑でしょう?」
「え・・・・」
「だから、何も要りません。俺の気持ちを聞いてくれた。それだけで十分なんです」
失礼します、と頭を下げて、小狼君は部屋を出て行った。
・・・・・・まだ驚きが消えず、一人部屋でぼんやりとしていた。
とりあえず、彼が俺を好きなのは分かった。
でも、どうして俺?好かれるようなことなんて、何もしてないのに。
「・・・・・・・・・熱ぅ」
顔が、熱い。
あんな告白を受けたのは初めてだったからかな。
「・・・・・あれ?」
そういえば。
彼は最後の方、何か気になることを言っていたような。
先ほどの会話を思い出してみた。
「・・・・・・・あ」
『ファイさんに好きな人がいるっていうのは知ってるから』
・・・・・・・・・好きな人?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ??
■ □
次の日の朝、いつもどおり早くに起きて、台所に入る。
いつもは俺だけなのに、今日に限って小狼君はもう起きていた。
小狼君は顔を上げる。俺に気づく。俺はドキッとして体が固くなったのに、小狼君は
いつもの笑顔を見せていた。
「おはようございます」
「・・・・おはよ。今日は早いね」
「なんだか目が覚めてしまって。今から朝ご飯の準備ですか?手伝いましょうか?」
「あ、ううん・・・・平気。大丈夫」
「そうですか?でも、何か手伝えることがあったら仰ってくださいね」
にっこりと笑う笑顔はいつもと同じで。俺ばっかりがなんだかどきどきしてて。
そう想うと、ちょっとむっとした。
「どうかしました?」
「・・・・・・・普通だなーと思って」
小狼君がきょとんとする。俺はいってからハッとして口を抑える。
うわ、馬鹿なこと言った。何言ってんだろ、俺。
「・・・・・・・だって、気まずくなったらファイさん、嫌でしょう?」
「・・・・・・へ?」
今度は俺がきょとんとする番だった。
「俺がファイさんに気を使ったりすると気まずくなるでしょ?そんなの、ファイさん
嫌でしょ?」
俺は無言で頷く。すると、小狼君はまたにこりと笑った。
「だから、普通でいるのが一番だと思って」
・・・・・・俺のため?
聞くと、小狼君は可笑しそうに笑った。
「はい」
・・・・・・・何これ何これ。胸、きゅんとするじゃない。
子供のくせに、反則。
「・・・・・・ねえ、小狼君」
「はい?」
「一つ、聞いてもいい?」
「はい」
「昨日言ってた、好きな人って・・・・・なに?」
「え?」
「小狼君、言ってたよね。俺に好きな人がいるのは分かってるって。それ、誰の
こと?」
「誰って・・・・・・・・・」
ポリポリと頬をかくと、小狼君はとんでもないことを言った。
「ファイさんは、黒鋼さんのことが好きなんでしょう?」
「・・・・・はあ!!?」
「・・・・・・・違うんですか?」
いやいやいや、ちょっと待って。黒鋼って黒りんのことだよね?
え、どういうこと?
「だって、ファイさんが黒鋼さんを見る目が、なんとなく恋をしているように見えて・・・・」
「えーっ、俺、そんな顔してた!?」
「はい」
「・・・・うわー・・・・そうなんだ」
「・・・・・ファイさん?」
「あ〜・・・・あのね。ごめん、それ誤解」
「え?」
「確かにね、黒りんのこと見てたのは認めるよ。でもね、それはある人に似てたから
なんだ」
「ある人?」
「俺の大切な人。ま、家族みたいなものなんだけどね」
軽くため息をついて、小狼君の隣に座った。
「似てたって言っても、その人は穏やかな人で、黒りんとは違って争いごととかが大好
きって性格じゃなかったんだけど・・・・なんとなくね、根っこの方が似てたような気がし
て・・・・それで時々、黒りんのこと目で追ってたのかもしれない」
「・・・・・・じゃあ、黒鋼さんが好きって訳じゃない?」
「違うよぉ。確かに、家族としては大事だけどさ」
おとーさんだもんね、と小狼君の方を向いて笑うと、小狼君が真剣な目で俺を見てるから
どきりとした。
え・・・・な、何?
「しゃ・・・・・・小狼君?」
隋隋と迫られてきて、ずるずると横にずれる。だけど、このソファーは小さいから、逃げ
られない。背中がソファの端に当たると、小狼君が俺の方を押してどさりとソファの上に
押し倒した。
え、ええええ?なに、何これ。
「しゃおら・・・・・」
「じゃあ、俺諦めなくていいんですか?」
「え?」
「ファイさんが黒鋼さんを好きなら、諦めようと思った。諦めがついた。ファイさんの
幸せを邪魔する権利なんかないから。でも、そうじゃないなら話は別です。俺は、貴方を
諦めない」
「・・・・・・・小狼君・・・・・・・」
「・・・・・・いいでしょ?ファイさん。貴方のこと、好きでいても」
「・・・・・・・」
「それとも、迷惑?」
「め、迷惑じゃ・・・・」
「じゃあ、いいですか?」
「う・・・・・・」
小狼君のこの目は苦手。全てを射抜かれるみたいだから。
でも・・・・・・・嫌いじゃない。
「・・・・・・・・いい・・・・・・けど」
「ホントですか!?」
「そ、そのかわり、俺が小狼君のこと好きになる保証なんかないからね!!」
「はい、いいんです。それがファイさんにとって幸せなら。でも、諦めない限りは俺、
絶対ファイさんに俺のこと好きになってもらう。頑張りますから」
「っ・・・・・・・」
かーっと顔が熱くなるのがわかった。
全てを射抜く、真剣な表情。子供みたいに笑う、無邪気な笑顔。
それに見とれてしまう自分がいるということは、この勝負、彼の方が断然有利みたいだ。
FIN
小ファイ・・・・・年下攻め萌え!!(コラ)