方だけの







今日僕と渋谷が辿り着いた所は、眞魔国の隅にある泥沼の中。まあ、確かに水かもしれないけど・・・・・・
通す所は選んでくれよ、眞王サマ。
「陛下ーっ、猊下ーっ!!」
おお、今日も見事に汁を流してるね、フォンクライスト卿。
「お二方、大丈夫ですかっ!?」
「あー、うん。大丈夫大丈夫。こんなの俺、野球の練習じゃしょっちゅうだし」
ピッピッと泥を払いながら、渋谷は笑って言う。だけどね、さすがに頭から泥をかぶることはないと思うよ、
渋谷。
「猊下、どーぞ」
「ありがと、ヨザック」
僕はヨザックからタオルを受け取って、ごしごしと顔を拭く。でも、体全体をタオルで全部ふき取るのはちょっと
無理があるよね。でも、ベタベタして気持ち悪い。早くお風呂に入りたいなぁ・・・・・。






「猊下。早く眞王廟に戻りましょうか。白鳩を眞王廟に飛ばしてますから、戻った頃には暖かい風呂が沸いて
ると思いますよ」
にっこりと笑いながら、ヨザックはもう一枚のタオルで僕の頭を拭いてくれた。
・・・・ホント、気が利くよねぇ。僕がして欲しいこと、すぐにしてくれるんだもん。





だからってわけじゃないけど・・・・僕はきっと、ヨザックが好きなんだ。












■ □

泥だらけの体で眞王廟に入ると、巫女様達が僕を出迎えてくれた。ヨザックも許可を取って眞王廟に入る。
泥だらけになってしまった僕の世話係として、ね。
「へへー、お風呂お風呂」
「これだけ泥だらけじゃ、早く入りたいですよねぇ」
「うん。それにこっちのお風呂って好き。広いからのびのび出来るし。ありがとね、ヨザック」
「何がです?」
「君が気を利かせて白鳩を飛ばしてくれたから、すぐにこうやってあったかいお風呂に入ることが出来るからさ」
「いえいえ。大したことはしてませんよ」
「それでも僕は感謝してんの。素直に受け取んなさい」
「・・・・はい。光栄にございます」
ヨザックは嬉しそうに笑う。その笑顔を見ると、なんだか僕も笑顔になってくる。
ヨザックの笑顔は太陽みたいにあったかくて、ポカポカしてて。
僕も思わず笑顔になっちゃうんだ。







「ねえ」
「はい?」
「ヨザックも一緒に入る?」
「・・・・・・・・・はい?」







ヨザックは目をこれでもかっていうくらい丸くする。
あれ?僕、そんなに変なこと言った?







「別にいいじゃん。これだけ大きいお風呂に一人で入るのもつまんないし。背中、流しっこでもしよっか?」
「は、はいぃ?げ、猊下、一体何を言って・・・・・」
「ほらほら、早く服脱いで。僕は早くお風呂に入りたいんだからさ」
「で、ですが猊下・・・・」
「もう、ぐだぐだ言わない。これは命令だよ。さっさとおいで」
「は・・・・あ・・・・・」
僕は泥で汚れた服をポイポイと脱ぎ捨てると、ヨザックを置いてさっさと浴室に入っていった。
・・・・・あ、でも念のため。僕はからりとドアを開けて、ヨザックにぴょこんと顔を覗かせた。





「逃げちゃダメだからね」
「うっ・・・・・は、はい」
やっぱり逃げるつもりだったんだ。










適温なお湯をばしゃっと頭からかぶる。ぷるぷると頭を振ると、泥がぴしゃぴしゃと飛び散る。
おっとっと。浴槽に入らないようにしなきゃ。
「洗いましょうか?」
後ろから声がして振り返る。お、ちゃんと来たね。偉い偉い。
「うん、おねがーい」
ヨザックは後ろから僕の頭をわしゃわしゃと洗ってくれた。
あ・・・・気持ちいい。ごつごつした指で、力を入れすぎないように僕の頭を洗ってくれる。
そんな気遣いがすごく好き。
「気持ち、ぃー・・・・」
「そうですか?」
「うんー・・・・・なんか眠くなってきちゃった・・・・・」
「あーあ、ダメですよ猊下。ホラ、起きて起きて」
「むぅー・・・・・」
ごしごしと目を擦っても、あったかい空気が邪魔をして眠気を誘う。僕はふらふらしながらも立ち上がっ
て、広い広い湯船に入った。体全体に広がるあったかい空気。心地よくて、眠くなって来て。
「ヨザックも入ればー?」
「え、でも・・・・」
「ホラ、早く入りなって。風邪引いちゃうよー?」
クスクスと笑うと、ヨザックは軽くため息をついて湯船に入った。ぱしゃんと音がして、波紋が広がる。
僕は口までお湯に使ってぶくぶくと泡を立てる。ぱしゃっと手を出すと、雫が顔に跳ねた。
「猊下。そのまま眠らないでくださいね」
「うん、大丈夫ー」
「本当ですかぁ?」
「大丈夫だってばぁ」
もー、心配性だなぁ。僕はつつつ、とヨザックに近づく。そしてヨザックの腕にぽすん、と後頭部を乗せて
寄りかかった。




「げ、猊下?」
「えへー。いい気持ちだから。ちょっと枕になって」
ヨザックに笑顔を見せると、ヨザックの顔がちょっとだけ赤くなる。
およよ?のぼせちゃったかな?まだそんなに浸かってないと思うけど。







「ヨザ・・・・?」
「っ・・・・」




振り返って見上げてみる。なんだか切羽詰ったような表情で、僕は首をかしげた。
すると、急に腕をつかまれて引き寄せられ、唇に熱いものが重ねられた。
「んっ・・・・!?」
急に襲ってきた口付け。深くて、熱くて・・・・・眩暈がするようなキス。
最初は驚きのあまり、ヨザックの体を押して抵抗した。でも、何度も何度も重ね合わせられていると、
頭がくらくらしてきて・・・・・僕は目を閉じた。
「ん・・・・・」
ヨザックの首に手を回して抱きつく。すると、自然にもっと深くなっていくキス。
ずっと・・・・・望んでいたのかもしれない。






「んっ、ふあ・・・・・ん・・・・・」
舌が滑り込んできて、僕もそれに応えた。
ああ・・・・・なんかホント、のぼせそう。お湯の熱さと唇の熱さがいっぺんに降ってきて、もうダメって
思っちゃう。
でも・・・・すっごく気持ちよくて。
もっとって、思った。





「あ・・・・ぁん、ヨザッ・・・・」
「猊下・・・・・」
ちょっと低めの声。その声にすら、眩暈を覚える。ドキドキして、どうしようもない。
これは、のぼせちゃったから?
お風呂に?それとも・・・・・・彼に?







「ヨザック・・・・・」
名前を呼んで縋り付くように抱きつくと、ヨザックの手がするりと動く。
頬から、肩・・・・・いろんな所を隅々まで触られる。ちょっとくすぐったい気持ちが混じって、すごく気持ちが
よかった。ヨザックの手から、本当に僕を大切にしてくれてるって気持ちが伝わってくるから。
「ね、もっと触って・・・・・」
そう言うと、ヨザックはちょっと驚いたような目で僕を見る。
「・・・・・・大胆ですね。誘ってます?」
「別に・・・・・素直な気持ちを言ってみただけ。何かご不満でも?」
「まさか」
ヨザックはクスクス笑う。なんか面白くない。僕はちょっと唇を尖らせて、ヨザックの頬をむにむにと引っ張った。






「痛いですよぉ」
「ウソツキ」
「嘘じゃないですって・・・・・」
「君がこれくらいで痛がるタマ・・・・んっ」
ちゅって口付けられた。さっきと違って、触れるだけ。なんかそれがちょっと不満。






もっとキスして。もっと触って。
それは、君にだけ許された領域なの。









「・・・・・・・・・もっと」
だから、触って。









微裏・・・・ですかね?(聞くな)