長期の仕事が入って
恋人との逢瀬が減って
やっと帰ってこれたのは、もう陽はとっくに落ちた深夜
それでも会いたくて、会いたくて
血盟城にいるという、彼の部屋へと忍び込んだ





「・・・・・猊下?」
「・・・・・・・遅い」





ひょこりと顔を覗かせてみると、猊下がむっつりした顔で暗闇の中、ベッドに座っていた。
俺は苦笑して猊下の側に近づき、すっかりむくれてしまっている黒猫ちゃんに近づく。
「ただいま帰りました」
「・・・・うん」
「こっち向いてくださいよ」
「・・・・・・」
まだ背を向けている。やれやれ、ホントに意地っ張りだなぁ。
まあ、仕方ないか。昼には帰りますって白鳩便を送ったけど、ちょっと色々ごたごたがあって、こんな
時間になってしまったんだから。
「約束破ってすみません。怒ってます?」
「・・・・怒ってないけど」
「けど?」
「・・・・・・寂しかった」






小さくポツリと猊下が漏らす言葉に、俺は正直ちょっと驚いた。
意地を張ってるかと思ったけど、結構今日は素直かも。俺は笑うと、猊下の肩に手を置いた。
猊下の肩がぴく、と震える。
相変わらず、細い肩。ちょっと強く抱いたら折れそうな体。
だけど、おそるおそるとゆっくり俺の方を向く猊下を見たら、一瞬にしてその気持ちを忘れた。







ずっとずっと会いたくて、愛しかった存在
見たかった、その姿







俺はたまらなくなって、猊下を強く抱きしめた。















それから先は、あまり良く覚えていない。
気がついたら無我夢中でキスをして、服を剥がして。
乱暴にならないように気をつけた。それだけは何とか理性の中にあったみたいだ。
「あっ・・・・・あん、あっ・・・・」
「猊下・・・・」
「んっ・・・・はあっ、ヨザ・・・・」
細い腕を伸ばして、俺にしがみついてくる。
猊下のほうから、キスをねだって唇を押し付けてくる。





ああ、本当に
今までこの人から離れられた自分が信じられない
こんなにも好きで、愛しくて
信じられないほどに、愛してる





「猊下っ・・・猊下・・・・」
「あっ・・・あ、あんっ!よざっ、よざぁ・・・・」
ぽろぽろと涙がこぼれる。俺がその涙を舌で掬い取ると、猊下の手が頬に伸びてきて、何度も俺にキスをする。
「好きっ・・・・好き・・・・ヨザ・・・・」
「・・・・猊下・・・・」
「だからねっ、おねが・・・・・」
「・・・・なんですか?」
「・・・・今はっ・・・・僕だけを見て・・・・」







こんなにも、貴方が好きで
愛しくて
愛しくて
愛しくて





「っあ・・・・・」
「・・・・ヨザ・・・・?」
言葉を止めた俺を、猊下は不思議そうに見つめる。
俺は笑って、なんでもないですと伝える。すると、猊下も微笑んで、俺の首に手を回して抱きついた。







「ヨザック・・・・」





貴方の言葉一つ一つが愛しい
貴方の表情一つ一つが嬉しい
だけど、俺の中の国への忠誠が、愛してるの言葉を邪魔する
それは、猊下も分かってること
だけどそれでも、俺は貴方の側にいたいから
あなたの笑顔を、一番近くで見ていたいから







「よざっ・・・・・好き・・・・・」
「・・・・っ・・・俺も・・・・・」








だから















「・・・・また仕事?」
服を着込む俺を見て、猊下は気だるそうに尋ねてくる。ちょっとやりすぎたかな。
「すみません」
「・・・・謝ることないよ。また長期?」
「そうみたいですね。ホント、親分ってば非情だわぁー」
わざとグリ江口調で言ってみたけど、猊下はまだむっつりとしてる。
・・・・やれやれ。ホント、可愛いんだから。






「げーいか」
「・・・・なに」
「・・・・いつも側にいられなくて、申し訳ありません」
「・・・・なに言ってんの。君はこの国の為、渋谷の為に任務に出るんでしょ。僕だけのことを考えちゃ
ダメなの。当たり前じゃない」
「はあ・・・・」
「任務、放り出したらただじゃおかないからね」
そう言ってプイ、と俺に背を向ける。





だけど、その体は震えていて
ぎゅう、と布団を握り締めていて
どんな顔をしているのか、すぐに分かった







「ねえ、猊下」
「・・・・ん?」
「俺は、どんなに遠くに行っても・・・・どんなに長い間、貴方の側を離れても、最後は必ず帰ってきますよ」
「・・・・・え?」
「俺が帰ってきたいと思うのは、眞魔国じゃない。貴方の側なんです。貴方の隣が、俺の居場所なんです」
「・・・・・・」
「自分の居場所を守るために、俺は今日も行きます。貴方の側から離れます。でも、いつでも俺は笑って
ますから。笑って、笑って、ずっと笑って。また笑顔で、貴方の所に帰ってきますから」
「・・・・・うん」
「だから、猊下も笑顔でいてくださいね」
「・・・・うんっ・・・!」
猊下が飛び起きて、俺に抱きついてくる。
この小さな存在を、俺はしっかりと抱きしめる。温もりを、覚える。







「・・・・好きですよ、猊下」
「・・・・うん。僕も、好きだよ。ヨザック」






愛してるは、言わない
それが、俺たちのルール
言ってしまうと、きっと離れられなくなる
ずっとずっと側にいられたらいいけれど
そうしたら、きっといつか、居場所が壊れてしまうから
だから、俺は今日も行きます





だけど、必ず貴方の隣に帰るから
貴方は笑顔で、その場所を用意していてくださいね












イメージソング 「長い間: kiroro」