人たちの






「クリスマスでしょ、バレンタインに誕生日・・・・えっとそれから〜・・・・」
「何の話ですか、猊下」
部屋でブツブツ言ってる猊下に、後ろからひょっこりと顔を覗かせて話しかけると、猊下の肩がびくんと
跳ねる。
「うひゃっ!い、いたの、ヨザック!」
「はあ、さっきから」
「だったらちゃんと声かけてよ!もう信じらんないーっ!」
「はいぃ?」
ぐいぐいと背中を押されて、部屋を追い出される。バタン!とドアが閉まる音が妙に寂しい。
「・・・・・なんなんだ?」







ぽつんとそこに取り残されたが、鍵もかけられたみたいだし、ここにいてもしょうがないか。
っていっても、特に今することないんだよなぁ。
少し辺りを見渡してみる。すると、中庭に陛下がグレタ嬢ちゃんと楽しそうに遊んでいるのを見つけた。
親子でいる所を邪魔するのは忍びないが、俺は近づいてみた。
「どーも」
「あれ?ヨザック、村田の所に行ったんじゃなかったの?」
「・・・・追い出されたんですよーぉ」
「え〜?まぁたなんかしたのかぁ?グレタ、ヨザックみたいな大人になっちゃダメだよ」
「はーい、お父様」
「お二人とも、酷い・・・・」
しくしくと泣きながら、ハンカチを噛み締めてみる。
だけど、さっきの猊下のことを思い出した。
聞きなれない言葉ばかり呟いてた。唯一分かるのは誕生日くらいだ。
もしかすると、チキュウの言葉なんだろうか。だったら陛下に聞くのが一番いいのかもしれない。







「クリスマスにバレンタイン?うん、知ってるけど」
「それ、一体なんなんですか?」
「えっと、クリスマスはイエス=キリストの祝祭だろー、バレンタインは好きな奴にチョコレー
トって言うお菓子をやる日」
「は・・・・あ」
「それ、村田が呟いてたの?」
「はい。あと誕生日も言ってました」
「クリスマスにバレンタインに誕生日・・・・・ああ、なるほど!」
ぽん、と陛下は手を叩く。え、なんなんですか?
「なるほどな〜、村田も可愛い所あるじゃん」
「はい?あの、なんですか?」
「クリスマスとバレンタインと誕生日には、一つ共通点があるんだよ」
「共通点?」
「うん。あのな・・・・・」








■ □

「げーいーか?」
バルコニーに出てる猊下の後ろに回ってぎゅっと抱きしめる。こういう風に気配なしで近づけるから、
諜報員ってのは得だよな。
猊下はびくっと振るえたけど、ちょっと拗ねたような顔で、俺の腕に手をやった。
「・・・・苦しいんですけど」
「いやん、猊下ったら。力は入れてませんよぉ?」
「君は馬鹿力なんだから、ちょっとの加減じゃ足りないの」
「ひどーい」
猊下はそうは言うものの、本気で抵抗する様子はない。俺はくすくす笑って猊下のふわふわの髪の毛に
頬を埋めた。





「げーいか」
「・・・・何も言わなくていい」
「はい?」
「どうせ渋谷に聞いたんだろ?」
「・・・・ありゃ、お見通しですか」
「当たり前。さっき無理やり押し出したのにすっごいご機嫌の君を見れば一目瞭然じゃないか」
「あはは、なるほど」
俺はもう一度ぎゅっと猊下を抱きしめた。








「猊下」
「なに?」
「俺、猊下が仰った三つの記念日には絶対戻ってきますからね」
「・・・・そんな出来もしないこと」
「出来ますよぉ。だって、恋人たちの大切な記念日じゃないですか」
ぼん、と猊下の顔が赤くなった。あ、耳まで赤い。くく、と笑いが漏れる。すると、猊下にどすっと腹を
肘でどつかれた。
でも痛くないですよ。今は嬉しい気持ちでいっぱいなんです。





「くりすますもばれんたいんも陛下から教えていただきましたし」
「・・・・・・・」
「でも、一つだけ陛下も知らないみたいだから、教えてくれません?」






猊下の誕生日を。






ちゅ、と髪の毛にキスを落とすと、ますます顔を赤くする。そしてむぅ、と膨れた顔を見せると、
俺の方に振り向いて、髪の毛をぐいと引っ張ってきた。
「いて」
「僕だけじゃないでしょ」
「はい?」
「・・・・渋谷から聞いたんでしょ?恋人たちの記念日なんだって」
「はあ」
「だったら・・・・僕だけじゃないでしょ。君の誕生日もちゃんと教えてよ」
「っ・・・・」









・・・・そっか。恋人って言うのは、俺と猊下のことだもんな。
「・・・・ホント、可愛いですねぇ、猊下は」
「・・・・うるさい」
「可愛くて、昇天しそうですよ、俺vv」
「勝手にしてろ、馬鹿」
「あらら。嘘つきですねぇ、猊下。俺がいなかったら悲しいくせに」
「っ・・・勝手に言ってろ!」
あ、また殴られそう。俺はそれを阻止するために、先手必勝ということで、殴られる前にぎゅっと猊下を
抱きしめた。
最初は抵抗しようとしてた猊下だったけど、おずおずと俺の背中に手を回してきた。






ああ、もう可愛い。
こんな可愛い人が存在してもいいのかってくらい。







「じゃあ、一緒に誕生日を祝いましょうね」
「・・・・うん」
ちゅ、と額にキスをすると、猊下は嬉しそうに笑ってくれた。







くりすますとばれんたいんと二つの誕生日。
4つの恋人たちの記念日に、俺は貴方の元に還ります。
待っていてくださいね。









一周年記念小説です。
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