馬を走らせ、戻った城
ずっと見たかった笑顔が、そこにあった



「ただいま」
そう言って、彼は笑った
俺が惹かれた、その笑顔で








えたいトバ




「変わってないね」
血盟城の部屋を眺めながら、猊下は言った。
「もう、他の人の部屋になってるのかと思った」
「まさか。花瓶一つ動かしていませんよ。ここは、貴方の部屋ですから」
「もう、帰ってこないはずなのに?」
「それでも、ここに貴方がいたということは変わりませんから」
俺が笑うと、猊下もクスクスと笑いながら、ぽすんとベッドに座った。
「こっちではあんまり生活してなかったのにね。この部屋だって、そう何度も泊まったわけじゃない」
そう言って、毛布を手に取る。ふんわりと、陽の匂いがした。






「不思議だね。ボクの居場所がここにあるなんて」
「・・・・・猊下」
俺が呟くと、猊下はくすりと笑い、手招きする。俺が黙って近づくと、ぽんぽんと自分の隣を叩く。俺は、
猊下の隣へ座った。
「僕に何か、言いたいことがあるんじゃない?」
「・・・・・・・」
「あるはずだよね、ヨザック。言ってみなよ。怒らないから」
「猊下・・・・・・・」
「言って。これは命令だよ」
少し、声のトーンが低くなる。俺はごくりと息を飲むと、ぎゅっと拳を握った。






「貴方は、俺たちを裏切った」
「・・・・うん」
「演技だったのは知ってる。貴方には貴方の考えがあったことは知ってる。それでも貴方は、一度俺たちを
裏切った」
「うん」
「許せないと思った。一言言ってやらないと気が済まないと思った。そんな思いを抱いて、俺はあの場に
行ったんだ。それなのに・・・・・・・」





貴方が一瞬見せた、あの表情
辛くて辛くてたまらないとでも言うような、あの表情
それを見た瞬間、俺は全ての言葉を失った





「貴方は、卑怯だっ・・・・!」
「・・・・・そうだね」
「卑怯だ。何でだ。どうして恨ませてくれないんだ。眞魔国を脅かした、あんたをっ・・・・・・・」






ぽた、ぽたと
熱いものが溢れかえる
情けない、こんな
こんな醜態をさらしたのはいつ以来だろう



顔を見せることが出来なくて
俺は顔を俯かせた




すると、ふわりと
暖かいものに包まれた





「ごめんね」
「猊下・・・・」
「帰ってきたら、一番に謝ろうと思ってた」
「・・・・・」
「ごめんね・・・・・」
きゅ、と髪が握られて、抱きしめる力が強くなっている。俺は、震えた手で猊下の服を握った。
そしてもぞりと体を動かして顔をあげた。ふっと腕の力が弱まって、猊下と近くで顔が合わさる。




猊下の顔は、辛そうで辛そうで、辛そうで
泣きそうだった
そう、あの時見せたあの顔と
一緒だったんだ







「っ・・・!」
「っ、あ・・・・・」
どさりと、猊下の体がベッドに沈む。俺はその上に覆いかぶさり、猊下の顔の横に、自分の顔を埋めた。
顔が見れない。どきどきする。
どきどきして、くらくらして



死にそうだ








「・・・・ヨザック」
ふわりと、頭を撫でられた。俺はハッと我に帰り、ガバッと起き上がった。ぎし、と小さな音を軋ませて、
猊下も体を起こした。
俺はばっと背を向ける。一体どれだけ醜態をさらせば気が済むんだ。
「ヨザック」
「・・・・・すみません」
「どうして謝るの」
「・・・どうしてって・・・・」
「僕が、何かを怒った?」
「・・・・いいえ」
「だったら謝らないで」
ぎしりと、またベッドが軋む。俺が気づくその前に、猊下が俺の背中に触れて、ぴたりと頬を摺り寄せた。




「猊下・・・・」
「僕に、他にいいたいことあるでしょ」
「・・・それは・・・」
「今度は強制はしない。でも、言ってほしい」
ゆっくりと振り向く。すると、猊下はふんわりと優しく笑ってくれた。
「これは、村田健としての意見なんだけどね」
「猊下・・・・・」
「僕は、君のその言葉を待ってる」
「っ・・・・嘘だ・・・・」
「嘘じゃない」
「そんな、こと・・・・・」
「嘘じゃないんだよ。僕が今望んでいる言葉は一つだけだ」
「・・・・・・・猊下・・・・」
「ね・・・・言って。ヨザック」





ずっとずっと伝えたかった、たった一言





「っ・・・・俺は・・・・」
「・・・・・・・うん」
「俺はっ・・・・」




上手く息が出来ない。たった一言を言うだけなのに。
こんなに、こんなに苦しいなんて。





「ヨザック」
猊下は、ふわりと頭を撫でる。
「頑張って」
「猊下・・・・・」
「ボクはキミを拒否したりしない。いつでもここにいる」
「・・・・・・・」
「だからね。頑張って。ボクの、一番ほしい言葉をちょうだい」
「・・・・自惚れても、いいんですか・・・?」
「・・・・うん。いいんだよ」
「っ・・・・猊下・・・!」





ぐい、と猊下の腕を引いて引き寄せて抱きしめる。
なんて、細い体。華奢な体。
こんなに小さな体で、ずっとずっと一人で、頑張ってきたんだ。
貴方はずっと長い間、誰にも頼らず。たった一人で。全てを背負ってきた。




「今度からは、俺も一緒に背負う」


「俺は、貴方と一緒に歩いていきたい」


「ずっとずっと一緒にいたい」











「・・・・・・・・好きだ」








「・・・・・・ずっと、聞きたかった」
ぎゅ、と手が回って抱きしめられた。
顔は見えないけど、とても安心した声。
俺はやっと、手に入れた気がした。




俺の、俺だけの







「・・・・・・やっと、捕まえた」
「え?」
「捕まえたよ。僕だけの太陽だ」
「・・・・・・・・俺も、同じことを思っていました」





「好きになっても、いい?」
「好きになって、ほしいです」
「ずっと一緒にいても、いい?」
「嫌だと言われてもついていきます」
「じゃあ・・・・・・」






アイシチャッテモ、イイ?







「貴方の想いなら、いくらでも」
この身で、受け止めますから







「ずっと一緒にいることにしましょう」
「・・・・・・・うん」





ずっとずっとずっと
愛してて
この生が、終わるまで
もう、離さないでいて







俺だけの
僕だけの







太陽を











最終回を見てから、無性に書きたくなってしまいまして・・・。