「猊下・・・・・」
「ん?」
「それは一体ナンデスカ」
あ、思わず最後がカタコトになってしまった。
惹かれる指先
「渋谷のママさんがくれたんだよ。自分はもう使わないからって」
「あの・・・・・・一応確認したいんですけど、それって女物じゃ・・・・」
「うん。女性がつけるもの。マニキュアって言うんだよ」
猊下の爪は、きらきらと綺麗な薄いピンク色で、まだ乾いてないのか、猊下はふっと息を吹きかける。
ああ、なんかそんな仕草も色っぽく見えます。
「何で陛下の母君は、猊下にそれを・・・・」
「なんかね、フォンビーレフェルト卿につけたかったんだって。で、これを渡してくれって頼まれたんだけど・・・・
せっかくだし、こんな機会滅多にないから、僕もつけてみようかなって思って。わざわざ爪を塗ったりする女性の
気持ちを知りたかったっていうかさー」
「はあ・・・・・・で、分かったんですか?」
「うーん、わかんないかな。ね、ヨザックはどう?」
「はい?」
「こういうのつけてる僕見て、どう思う?」
うっ・・・・げ、猊下、そんな上目遣いに見つめないでください。心の底からヤバイと感じてしまいます。
「に・・・・・似合ってますよ」
「そう?」
「は、はい」
「ふーん、そっか。男がつけても似合うもんなんだ」
猊下は手を広げて、まじまじと両手の爪を見つめる。
あ・・・・・猊下が可愛くて直視できなかったけど、よく見るとホントにイイかも。
猊下は指も細いし爪も長いから、こういうのがよく映える。
ちょっと・・・・・大人の魅力を感じさせる。
ただ爪に色をつけただけなのに。やっぱり女性の道具は不思議だ。
「あ、そうだ。ねえヨザック。君、結構手先が器用だよね」
「は?まあ・・・・不器用な方じゃないんじゃないかなーと思いますが」
「だったらさ、ネイルアートしてみてよ」
「ねいるあーと?」
「うん。爪にね、色々絵を描くっていうか・・・・・例えば花とか星とか。そう言うの描いて、もっと可愛くしたり派手に
したりするの」
「爪にですか?」
「うん。ホラ、これで描いて描いて。大変だろうし、人差し指だけでもいいからさ」
「はあ・・・・・・」
とにかく俺は猊下から道具を受け取る。そして早く早くと急かす猊下の手をぎゅっと握った。
・・・・・・・あ。やっぱりすっごい細いな。
指は細いし、手はちっちゃいし。俺とは一回りくらい違うみたいだ。
「・・・・・・・・ヨザック?」
「あ、はい」
「はい、じゃないよ。なに僕の手握って、ボーっとしてんのさ」
「あ、すいません。いえ、猊下の綺麗な手に見とれて」
「あはは、ありがと。でもそういえば・・・・・手だったら、眞王の方が綺麗だったなぁ」
「眞王陛下がですか?」
「うん。すらっとしてて、指なんかも細くって。すっごい綺麗だったんだよ」
「・・・・・・・」
懐かしそうな顔。眞王陛下を想う顔。
それを見るたび、胸が痛い。
「いたっ・・・・」
「・・・・・・あ」
「もう、なにすんのさー。君の馬鹿力で思いっきり握らないでよ。どうかしたの?」
「あ〜・・・・・はい、すみません」
「別にいいけどね。それよりさ」
「あ、はい?」
「今、なに考えてた?」
・・・・・ぎく。
何でこの御人は、こんなにも勘が鋭いんだろう。
「・・・・・何も考えてませんよー」
「・・・・・ふぅ〜ん?」
にこーって笑ってやると、猊下もにこーって笑い返してきた。
あ、猊下。それ美人ですよー・・・・・
「・・・・・・って、ひててててっ!!」
「僕の前でそんなわっかりやすい嘘が通じるとお思いかなー?」
痛い、痛いですって、猊下っ!
ほっぺたを両方から思いっきりつねるのよしてくださいよーぅ。
お仕事出来ないくらい腫れあがったらどうしてくれるんですか。
「・・・・・何考えてたの?」
・・・・・・あ。
「ホラ、素直に言ってごらん?」
・・・・・・・まいった。
子供みたいにあやしているけど、その笑顔がすごく優しくて。
ふんわりした猊下特有の空気が、俺の周りを囲んで。
さりげない、何気ない一言が。
こんなにも嬉しくて。
「・・・・・・ただの一兵の身分で、分不相応なことを思ってしまいました」
「どんなこと?」
「恐れ多いことです」
「言ってもいいよ。眞王に対することでも別にいい。言ってごらん」
「・・・・・・・」
「ヨザック」
甘い、甘い猊下の声。
透き通るような声で、発している声後と食べてしまいたくて。俺は猊下の手を握って、そのまま唇へと口付けた。
「ん・・・・・」
全て・・・・全て、俺のものにしてしまいたい。残すことのないように、指の先まで、全て。
「ヨザ・・・・んっ」
食い尽くすように口づけを続けると、猊下は少し苦しそうな顔をする。そして俺の胸を少し押して抵抗するけど、
続けているとだんだん猊下もノッてきたのか、俺の首に手を回してきた。
「はっ、ん・・・・・・ふぅ」
苦しそうに息を吐く。俺は猊下から唇を離すと、口の端から流れ落ちる唾液をぺろ、と舐めた。
「猊下の味」
「・・・変なこと言うな」
「はい、すみません」
ぎゅむっと猊下を抱きしめると、猊下もゆっくりと俺の背に手を伸ばす。
「猊下」
「ん?」
「俺といる時は、俺のことだけ考えてください」
「・・・・・それが、君の望み?」
「今のところは」
「今のところ?あはは、ホントに人の欲って制限がないねぇ」
「ですねぇ。でも、こればっかりはしょうがないんですよぉ」
「はいはい。じゃあ僕は、君のそのおネェ言葉を控えてもらうようにお願いしようかなぁ」
「・・・・・・猊下、ひどぉーい」
「あはは」
楽しそうに笑う猊下を見て、俺も笑って。
そして惹かれるままに貴方の指先にキスを落とした。