盟城の常天国





今日もお茶を飲みながら、読書でもしますか。
そう思いながらぱらリと本を開くと、ノックの音がして、断りの声が聞こえたらヨザックが入ってきた。
「お茶でもいかがですか?猊下」
「ありがとう」
どーぞ、とヨザックが紅茶をテーブルの上に置く。それを飲もうと手を伸ばした瞬間、物凄い音が聞こ
えてきた。








「・・・・何かが割れる音?」
「すっごい音ですねー。今日はまた一段と」
ヨザックはやれやれというようにため息をついた。
別に驚きはしないのだ。血盟城住人にとってはいつものことなのだから。
「今日は何が原因かなー」
「昨日は女の子にへらへらしてたから、でしたよね?じゃあ今日は浮気疑惑ってトコですか?」
「うん、いい読みだねぇ。あの音の大きさからいってもそれが妥当なトコでしょう。もう少ししたら追いか
けっこの音が聞こえてくると思うよ」
くすくすと村田が笑うと、予言どおりどたばたと走り回る音が聞こえてきた。







「ユ―リ―っ!!この浮気者ぉ――っ!!」
「うわ―っ!!ヴォルフ、落ち着け!誤解だってば――っ!!」
「うるさい!!言い訳するな、この尻軽――――っ!!」










「・・・・・・・・今日はまた、一段と派手なことで」
「でも、あの二人の喧嘩にいちいち首突っ込んでたら、時間がいくらあっても足りないし。渋谷には悪い
けど、知らぬ存ぜぬを通させてもらおう」
「同感ですよ」
「ところで、このお茶美味しいね。君も一緒にどう?」
「光栄ですよ、猊下」








「頼むからヴォルフ!その辺にある物全部投げてくるのはやめて!!」
「うるさいぞ!お前の浮気のせいだろ!!」
「だから誤解なんだってば――っ!!」
どたばたと走って、ユーリはさっと柱の影に隠れる。すると、グレタを抱いたコンラートがひょっこりと顔を
見せた。
「おや、陛下。何をなさっているんですか?」
「ユーリ!」
「コンラッド、グレタ!しーしーっ!!」
頼むから静かに!とユーリは人差し指を立てる。そんなユーリを見て、コンラートは予想がついたのか、
にこ、と笑った。
「今日は一体何を?」
「・・・・・浮気疑惑で物投げられて、城内追いかけっこ・・・・・」
「ユーリ浮気したの?」
「してないよー。するわけないじゃん。いつものヴォルフの誤解なの」
は〜っとため息をつくと、コンラートはクスクスと笑う。
「これも立派なトレーニングの一環になるんではないですか?ランニングと反射神経の」
そういった直後、ユーリを探していたヴォルフに見つかり、ぴきっと青筋が増えたヴォルフラムを見て、
ユーリはさーっと青くなった。











「おとーさまはトレーニングに熱心なのね!」
「そうそう。夫婦限定のトレーニング」
「そんなトレーニングはイヤだ――っ!」
「ユーリぃ――っ!!!お前、ウェラー卿と何をしていたぁ!!」
「何もしてませーんっ!!」
感心するグレタとニコニコと説明をするコンラートを残して、ユーリとヴォルフラムの追いかけっこが再開
した。









「ヴォ・・・・ヴォルフラムさん、ちょっと落ち着いて」
「うるさい。この尻軽!!」
部屋に戻ってベッドに倒れこんだユーリは、花瓶を持ってバックで炎を燃やすヴォルフラムをどうどう、と
宥めようとする。
「ホンット誤解なんだってば!」
「頬に口紅をつけてて何を言う!!」
「だ、だから、あれはツェリ様の悪ふざけ!そりゃあ、ちょっと油断して頬にキスされちゃったけど・・・・ホント、
ヴォルフが気にするようなことは何も・・・!!」
「それでも嫌なんだ!!」
弁解を遮って、ヴォルフラムが叫ぶ。ユーリは目をぱちくりさせる。
なぜなら、ヴォルフラムが瞳をウルウルさせて、涙を流すのを必死に我慢しているように見えたから。








「・・・・・・ヴォルフ?」
「たとえ母上でもっ・・・・ユーリが他の人にキスされるなんて・・・・触れられるなんて・・・・僕は嫌なんだっ」
「・・・・・・・・」
「何でお前は僕のなのに、母上にキスさせるんだっ!ユーリの馬鹿!!」
花瓶を置いてベッドに座り、ぽかぽかとユーリを殴る。
そんな姿を見て、ユーリは顔が熱くなってきたのを感じ、きゅうんと胸がときめいて、ぎゅっとヴォルフラムを
抱きしめた。











「メチャクチャ可愛いっ!そんなヤキモチやいてたの?」
「うるさいっ・・・・呆れるなら呆れろ」
「呆れてないよ。嬉しい。すっげー嬉しい。ありがと、ヴォルフ」
「ユーリ・・・・」
ヴォルフラムの顔がピンクに染まる。ユーリはその可愛らしく染まった頬にちゅっと軽くキスをした。
「俺がこういうことするの、ヴォルフとグレタだけだから。安心してよ」
「・・・・・絶対だぞ」
「うん、絶対」
瞼や頬に、何度も何度もキスを繰り返すと、最後に小さな唇へとそっとキスを落としたのだった。














「あ、終わったみたいだね」
「俺、陛下がキスで誤魔化した、に一票」
「んー、じゃあ僕はフォンビーレフェルト卿の可愛さに、渋谷が陥落して抱きしめた、に一票。負けた方は
罰ゲームだよ、ヨザック」
「うえぇ〜、猊下の罰ゲームってきっついんだよなぁ」
「コンラート、ユーリとヴォルフ、仲直りしたかなぁ?」
「大丈夫。二人はとっても仲がいいから」
「喧嘩するほど仲がいいって言うんでしょ」
「そう、それそれ」
「二人も賭けに入んない?勝ったら命令権ゲットだよー」
「うーん、猊下の命令はなんだか怖いですねぇ」
「グレタもするするー!」
「あはは。グレタに賭け事なんか教えたら、おとーさまとおかーさまに怒られちゃうかもねー」
「っておい!!勝手に人を賭け事の対象にするな――っ!!」
隣室で盛り上がっていた4人に、渋谷ユーリ(職業:魔王)は、上様になるのを抑えて、びしっと突っ込みを
入れたのでした。