方にいたくて






「ヴォルフ、見て見て」
愛娘が、僕に駆け寄ってくる。その手には、綺麗な花で造られた花冠があった。
「ああ、可愛いな」
「ホント?」
「本当だ。グレタによく似合いそうだな」
「えへへ。でもね、これはグレタのじゃないよ」
「え?」
首をかしげると、グレタがきてきて、と手招きする。僕はイスから降りて、グレタの身長にあわせて膝をついた。
するとグレタは、にっこりと笑って僕の頭にぽすんと作った花冠を乗せた。
「あ・・・・・」
「これはね、ヴォルフのなの」
「・・・・・僕のために作ってくれたのか?」
「うん、そうだよ」
「・・・・・・ありがとう、グレタ」
僕はぎゅっとグレタを抱きしめる。グレタも僕の背に手を回してくれた。




「この頃ね、ヴォルフが元気なかったから」
「え?」
「・・・・・ユーリがいなくて、寂しいんでしょう?グレタもそうだもん」
「・・・・・グレタ・・・・・」
しゅんとした顔で、グレタは俯く。大きな瞳から、今にも涙がこぼれそうだった。
「全く・・・・仕方がない魔王だな、ユーリは。婚約者と娘にこんなに寂しい思いをさせるなんて」
「うん・・・・・・・でも、グレタはユーリが大好きなの。すっごくすっごく大好きなの。会えないからって、嫌いに
なったり出来ないよ。ヴォルフもでしょ?」
「・・・・・ああ。当たり前だ」
「・・・・早く、帰ってくるといいね」
「・・・そうだな」




嫌いになれるわけはないけれど
でも、やっぱり寂しいから
早く会いたいって、思うから




「そうだ、グレタ」
「なーに?」
「城下町に行かないか?久しぶりに一緒に買い物でもしよう」
「ホント!?わーいっ!!」
「グレタは何が欲しいんだ?花冠のお礼に、好きなものを買ってやろう」
「嬉しい!ヴォルフ、だーいすき!」






僕はグレタに仕度をさせて、馬を用意させた。グウェンダル兄上が供を聞いてきたが、親子で行ってきます、
と丁寧に断った。
「ねえねえ、ヴォルフ。グレタ、髪飾りが欲しいな」
「そうか。じゃあ、グレタに一番似合う髪飾りを探しに行こう」
「うんっ!」
えへへ、とグレタは笑う。僕は先にグレタを抱き上げて馬に乗せる。そして自分も乗ろうと、手綱を握った。
すると、ばしゃんっと大きな水しぶきが聞こえた。それに気づいて、僕とグレタは振り返る。
「なんだろう」
「・・・・・・」
グレタはきょとんとする。僕はその時、もしかしてという思いが頭の中を過ぎった。






「ヴォルフ?」
「・・・・・・・グレタ、おいで」
「え?」
僕はグレタを馬から下ろすと、抱いたまま音のした方へと走った。
音がしたのは、城の噴水の所だ。それほど遠い距離じゃない。そして角を曲がると、そこには噴水の水に
まみれた・・・・・僕とグレタの一番会いたいと思う奴がいた。







「ユーリ!」
僕とグレタはユーリの名前を呼ぶ。すると、グレタがぴょんと僕から飛び降りて、ユーリの所へと駆け寄り、
ガバッと抱きついた。
「ユーリ、ユーリ!会いたかったぁ!」
「グレタ!うん、俺も会いたかったよ」
すりすりと頬をすり寄せ合う。僕が動けないでいると、ユーリが僕に気がついて顔を上げる。






「ただいま、ヴォルフ」
「っ・・・・・・」
じんわりと目頭が熱くなる。
泣くな、泣くな。グレタに心配かけるし、何よりカッコ悪い。親である僕が、娘も泣いていないのに泣いてどうするんだ。
だけど・・・・・・・涙は止まらなかった。
僕は涙を流しながら、その場にしゃがみこんでしまった。
「ヴォルフ」
ユーリがグレタをおろして、僕の元に駆け寄る。
「大丈夫?ヴォル・・・・」
「っ・・・ユーリッ・・・!」
僕はユーリの首に手を回し、ぎゅうっと抱きついた。
今、この瞬間、ユーリが消えないように。僕とグレタの側から、いなくならないように。








「こ、こら、ヴォルフッ・・・・グレタが見てる」
「あ・・・・・」
僕はグレタがじいっと見ているのに気づいて、ぱっとユーリから離れた。
すると、グレタがにこっと笑って、僕とユーリにくっついてきた。
「グレタも、グレタも」
「・・・・・グレタ・・・・・・」
「二人だけでずるい。ね、グレタも一緒にぎゅーってして」
「・・・・・うん」






僕たちは、グレタも一緒に抱きしめる。一緒にこうして、お互いの体温を感じあって。
幸せだって、思うんだ。








「じゃあ、一緒に城下町に買い物に行こうか」
「お、それ賛成」