れた





無性に構ってほしい時がある。
理由は何でかなんて分からないけど、ただ、構ってほしくて。
いつもは嫌がるユーリに、へなちょこと言って仕事をさせるけど、今日はしてほしくなくて。
僕は、こっそりと執務室のドアを開けた。




あ、ギュンターがいない。席を外してるのか。
珍しいが、好都合だ。僕はひーひー言いながら書類にサインしているユーリの部屋にそっと入った。
「あれ?ヴォルフじゃん。どうかした?」
ユーリは僕に気づいてペンを止める。僕は何も言わず、ただじっとユーリを見る。
でもユーリには、それが睨んでるように見えたのだろうか。ちょっときょとんとした顔をすると、慌てた
様子でペンを握り直した。


「ちゃ、ちゃんとやってるって。ほら、もうこんなに終わった!」
積んである書類の山を指差す。でも、まだ未処理の書類の方が多い。
こんなことを想うなんて、国を治めるものとして失格なのかもしれないけど、僕はユーリに手を止めて
ほしかった。
僕だけを見てほしかった。




「ヴォルフ?」
黙って近づいた僕に、ユーリがきょとんとした顔を見せる。
普段なら怒鳴る僕がこんな風に黙ったまま近づくから、珍しいのか?
だったら、もっと珍しいものを見せてやる。
僕はそう思って、ユーリの首に手を伸ばしてぎゅうっとしがみついた。




「ヴォ、ヴォルフ?」
「構って、ユーリ」
「へ・・・へ?」
「僕のこと想って。僕にだけ触れて。僕に構って」
「ヴォル・・・・フ?」
「ホラ、早く」
ちょっと拗ねた顔で、ちょっと離れてユーリの顔を覗き込む。ユーリは顔を赤くして、戸惑った顔をしていた。





「あ・・・・・あのさ、まだ書類残ってるんだけど」
「今はするな」
「いつもしろってうるさいのに?」
「たまにはそういう時もある」
「いや、でも・・・・・・・またグウェンダルに怒られる」
「婚約者の願いを叶えられないのか?」
「そういうわけじゃないんだけど・・・・・」
「はっきりしろ、ユーリ」
ぽふん、とユーリの胸に頬をうずめる。
あったかくて、やわらかい。それになんだかいい匂いがする。
もしかして、また母上の美香蘭でも使ったんだろうか。
あ、だから僕もこんな気持ちになるんだろうか。





「・・・・・これしないと、やばいんだよなぁ」
まだ言っているのか、ユーリ。いつもはベタベタくっついてくるくせに。僕から迫るとホントに弱いんだから。
「ユーリ」
「え、なに?」
「ユーリのしなきゃいけないことは」
「え?」




「僕より、大事?」







あ、ユーリの顔が真っ赤になった。当然だ。ユーリの弱い所を全部突いてやったんだから。
こうすると、絶対ユーリは堕ちるんだ。







「・・・・・・・仕方ないなぁ」
そう言って、心なしか嬉しそうに僕に唇を重ねてきた。
ホントに、簡単な魔王様だ。




だけど、そんなへなちょこ魔王だから
僕はお前が大好きなんだぞ