終わりの時は近い。
そう告げられたとき、僕は一筋の涙を流した。
Last quarter 1
例えば、小鳥の鳴く声とか、木の葉が擦り合う音とか。
ほんのちょっとしたことなんだけど、それが耳に止まる。
僕は指で一輪の花を撫でる。今朝方、メイドさんが僕の部屋に活けてくれたものだ。
温室の花が咲いたので是非に、と。
いい香り。淡いピンク色のその花は、風に揺られていい香りを運んでくれる。
僕がちょいちょい、とそれを撫でていると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「・・・・ヨザック」
「花ばっか撫でてないで、俺のことも撫でてくださいよぉ」
「いい大人がなに言ってんの」
「そりゃあね、他の奴らに撫でられたってなんとも思いませんが、猊下ならやっぱり
なでなでしてもらいたいーって思うんですよ」
「なでなで言うな。キモイ」
「ひどぉい、猊下・・・・・」
しくしくとなくヨザックを見ると、思わず笑ってしまう。
愛しい、と思う感情。
村田健に生まれて、初めて得た感情。
ヨザックにだけ、感じる気持ち。
「ヨザック」
「はい?」
「好きだよ」
僕が笑ってそう言うと、ヨザックはちょっと驚いたように目をぱちくりさせていた。
こういう顔も、なんか好き。
「ヨザック」
「好き」
振り向いて、首に手を回して抱きつく。悔しいけど、身長差があるから、手を上に伸ば
さないと、こういうことは出来ない。
ちょっと腕が痛いけど、こうして抱きつくのも好き。こうやって抱きつくと、まるで包み
込むかのように、僕のことを抱きしめてくれるから。
「俺も、好きですよ」
耳元に聞こえる、ヨザックの声が好き。
ねえ、ヨザック。
僕ね、ずっと君に聞きたかったことがあるの。
「ヨザック」
「なんですか?」
「もし、僕がいなくなったら、どうする?」
ヨザックの抱きしめてくれる腕がふっと緩む。僕はするりとヨザックから離れると、ヨ
ザックを見上げ、にこりと微笑んでみせた。
「・・・・猊下?」
「・・・・・ごめんね」
僕はヨザックの大きな手を取って、頬を摺り寄せる。
大きくて、あったかくて。
僕は、この手が大好きだった。
僕を包んでくれる腕が好き。
僕を呼んでくれる声が好き。
僕を見つめてくれる瞳が好き。
大好きだって、何度伝えても伝えきれない。
でもね、でも
「・・・・・眞王が、呼んでるんだ」
僕はもう、行かなきゃいけない。
