歌を聴かせて 9





静かな夜道。うさぎと星野は一言も喋らず歩く。
この空間が耐えられず、星野は何度か話しかけようと努力する。しかし、何を話せばいいか分からなかった。


その時ふと、自分の唇を意識する。数時間前の出来事を思い出した。
今でもまだ、感触が残っている感じだ。星野はチラ、とうさぎに目を向けると、ゆっくりと手を伸ばし、自分より
一回り小さい、うさぎの手を握った。
うさぎは驚いて顔を上げる。星野はうさぎの手をぎゅっと握ると、何も言わず、ふわりと口付けた。
暖かなそのキスを受けて、うさぎはそっと目を閉じた。
夢じゃない。そう、改めて実感した。
嬉しくて、胸が熱くなって。星野はうさぎの背をとん、と壁に当て、そのまま口付けた。
人気がないとは言え、外でこういうことをするのは勇気がいる。スーパーアイドルだったら尚更だ。
だけど、そんなこと気にも留められないくらい、夢中になって小さな唇に口付けた。


「はっ・・・・せい、や・・・・苦しい・・・・」
「あ・・・・・・悪い」
唇を離すと、ぷは、とうさぎが苦しそうに息を吐く。少しやりすぎた、と思ったが、自分の今の気持ちを止める
ことなんて出来なくて、うさぎの髪の毛を手にとって、口付けた。
うさぎはびくっと震えるが、黙ってされるがままになっている。ぎゅうう、と目を閉じてじっとしているうさぎが可
愛くて、星野は思わず笑った。
「分かった分かった。これ以上はしねーよ。それに・・・・・・・俺まだ、ちゃんと聞いてないし」
「え・・・?」
うさぎはきょとんとして顔を上げた。星野はとん、と壁に手をつき、顔を近づける。うさぎはまたびくっとすると、
体をぎゅっと縮めた。



「告白の返事・・・・・まだ、もらってない」
「あ・・・・・」
確かに、何も言ってなかった。
しかし、星野には充分伝わってきている。
うさぎが今、何を考え、誰を想っているか。
「星野・・・・ずるい・・・・」
「何が?」
ニヤニヤ笑う星野を見て、意地悪、と小さく呟く。そして星野から目を逸らして、少し俯いた。





「・・・・・・言っても・・・・いいのかな・・・・」
「え?」
「だって・・・・・私・・・・・・」
うさぎの体が震えていた。それに気づいて、星野はぎゅっと抱きしめる。
「悪い・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「怖いよな・・・・未来を、変えてしまうこと」
腕の中で、うさぎはこくりと一つ頷く。そして星野の背に腕を回し、ぎゅっとしがみついた。
「俺が、守るから・・・・全てから・・・・おだんごのこと、守るから・・・・だから・・・・」
「星野ぁ・・・・・」
声が涙声になって、星野はうさぎを離す。顔を覗き込めばやっぱり泣いていて。そっと涙を指で拭った。






「泣き虫おだんご」
「ふえぇ・・・・」
「ったく・・・・しょうがねぇなぁ」
ふっと笑ってうさぎの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。その大きな手に包まれて、うさぎは少し笑った。
そしてきゅっと星野の手を握って、少し背伸びをして星野の頬に口付けた。
「・・・・・あ」
「へへ、お返し」
ペろ、と舌を出して笑った。不意打ちのキスで、星野は少し顔を赤くする。うさぎはぎゅ、と星野の服を掴むと、
その胸にぽすん、と寄りかかった。






「星野が好き・・・・・・大好きだよ・・・・・」
「おだんご・・・・」
「・・・・もう。こんなときくらい、名前で呼んでよ」
ぷぅ、と拗ねたような顔をすると、星野は一瞬きょとんとするが、ぷっと吹き出して笑った。
「でも俺、おだんごで呼びなれちまってるし」
「あーっ、まさか私の名前、忘れちゃったんじゃないでしょうね?」
「まさか」
くすくすと笑うと、こつん、と額同士をくっつけた。





「おだんご頭の・・・・・・・月野うさぎ。・・・・My dearest person」
「・・・・・・・・・ふぇ?何?なんて言ったの?」
「・・・・・・・お前な・・・・・・・もうちょっと、勉強しろ」
呆れたような顔をして、額をぺちっと叩く。一気にいい雰囲気が消えてしまって、うさぎはむぅっとした顔を
する。
「なによぉ、星野だって英語苦手なくせに」
「これくらいは知ってるっての」
「むぅ・・・・・で、なんて言ったの?」
うさぎは首をかしげる。するとひゅう、と寒い風が吹き、くしゅんと小さなくしゃみをする。星野は苦笑すると、
自分の巻いていたマフラーをうさぎに巻いてやった。
「あ・・・・・」
「ホラ、帰るぞ」
「あっ、ちょっとまってよ。ねえ、なんて言ったの?」
「・・・・・・」
星野は少し黙り込んだ。その顔は少し赤い。そして、うさぎの方に手を回し、ぐいっと引き寄せた。




「きゃっ!」
「じゃあ、今言った言葉くらいは覚えとけよ」
そう言って、うさぎの耳元に唇を近づけて、こそりと囁いた。最初は目をぱちくりさせていたうさぎだったが、
次第に顔が真っ赤に染まる。すっかり茹蛸状態になってしまうと、星野はぷっと吹き出して笑った。






「次の曲のタイトルにしよっかなー♪」
「きゃああっ!ダメだってばぁ!!」
「別におだんごのコトだってわかんねーんだからいいじゃん」
「ダメダメ!そ、そんなの歌われたら、私・・・・・嬉しすぎて、死んじゃうもん」
うさぎの言葉に、今度赤くなってしまったのは星野だった。うさぎの言葉は時々不意打ちだ、と思う。









さすが、My dearest person

〜俺の、最愛の人〜








FIN






はい、とりあえず完結です!
スターズ・・・というより、星うさにはまってからは、星野君がカッコよくて仕方ありません・・・
最初は、外見的に夜天が大好きだったんですが、スターズを見返すと星うさばっかり目で追うようになり
ました。
子供の頃に見たきりだったので、動画を見つけたときは「あ、懐かしい・・・・」みたいな軽い気持ちで見てた
んですが、気づいたら嵌っておりました。
星野とくっついたら大変なことって色々あると思いますが、それを乗り越えてでも、あの二人は一緒にいて
ほしいです。
これには一応続編があります。よろしければ、そちらも是非ご覧くださいませ。





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