唄を聴かせて 8
アンコールも終わり、3人は楽屋に戻る。星野はその道を足早に戻ると、急いで楽屋のドアを開けた。
中には、綺麗な長い髪をさらさらと流して、机に突っ伏して眠っているうさぎがいた。気持ち良さそうに
眠っているうさぎを見て、星野は思わず苦笑する。そして、そっとうさぎの肩を揺すった。
「おい、おだんご」
「ん・・・・・」
「起きろって、ホラ」
「ふにゃ・・・?」
ぱち、とうさぎは目を開けた。そして眠そうな目を星野に向ける。
「せいやぁ・・・?」
「っ・・・!」
とろんとした顔で見上げられて、お約束ながらも星野はドキッとしてしまった。トップアイドルとはいえ、
女の魅力を感じる所は同じなのだ。
「ほ、ホラ、寝ぼけんな。さっさと起きろ」
「んー・・・・」
ごしごしと目を擦りながら体を起こす。星野はうさぎに背を向けて、どきどきしている胸を必死で押さえた。
「狼になるなよーぉ、星野」
「わっ・・・!や、夜天・・・・大気」
急ににょきっと現れた夜天と大気に驚きの声を上げる。その声で、ようやくうさぎは目を覚ましたようだ。
「あ・・・大気さん、夜天君」
「おはようございます。じゃ、ちょっと変ですかね」
「ははっ、寝癖ついてる」
「えっ、うそっ!」
うさぎは慌てて髪を整える。そんな3人を見ていると、星野は少しむっとした顔を見せた。
「あの、もうライブ終わったんですか?」
「ええ、なんとか」
「無事に終わってよかったよ。星野の我侭のおかげでどうなるかと思ったけど」
「我侭?」
うさぎがきょとんと首をかしげると、夜天はくすっと笑い、うさぎの耳元でそっと言った。
「ホラ、さっきの歌。あれね、一昨日急に言い出したんだよ。この歌をおだんごに送りたいからって」
「え・・・?」
「歌で告白なんて、僕は辞めろって言ったんだけどね。しかも、スリーライツのメンバーに想い人がいる、
なんてバレたし、明日から週刊誌とかがうるさいだろうなー」
やれやれというようにため息をつ区と、携帯で話していた大気がぴっと携帯を切った。
「いえ、今日からみたいですよ」
「へ?」
「この会場の前に、もうたくさんの取材陣がいるそうです」
「げっ、マジ?」
夜天は嫌そうな顔を見せる。
「星野のせいだからね」
「うっ・・・・・分かってるよ」
「しかし困りましたね。これでは帰れません」
「強行突破かなぁ・・・・・でも、疲れてそんな気分になれないし・・・・」
「・・・・・・そうですね・・・・ここは、もうあの手しかないでしょう」
「あの手?」
星野、夜天、うさぎの3人がきょとんとする。大気はにっこりと微笑み、その"手"を説明した。
2
「・・・・・・・・ふぅ」
「何とか抜け出せたみたいだな」
「緊張したぁ」
会場から抜け出して、近くの公園に入り込んだ。スリーライツの3人だけではなく、うさぎ、美奈子達も一緒だ。
「でも、3人が変身以外でも女性になれるなんてびっくりしちゃった」
美奈子が感心したように言う。夜天はサングラスをずらすと、悪戯っぽくぺろ、と舌を出した。
そして3人は草むらで着替えて、男へと戻った。
「さて、と。帰ろうか」
「え〜、打ち上げとかしないの?」
「打ち上げぇ?」
「やっぱりライブが終わった後といえば、打ち上げじゃない!パーッと行きましょ、パーッと!」
「ですが・・・・家ではプリンセスも待っていますし」
「だったら家でやったらいいじゃない!ね?」
美奈子は笑ってパチン、とウインクする。その意味ありげなウインクに大気は気づいて、少し考え込んだ。
「・・・・・・そうですね。ま、たまにはいいでしょう」
「うぇ〜、マジ?」
夜天は嫌そうな顔を見せる。疲れてるのに、と顔にかいているようだ。しかし、そんな夜天の腕に美奈子は
元気よく抱きついた。
「ホラホラ、行きましょ!」
「ったく・・・・・・・・しょうがないなぁ」
やれやれとため息をついて、夜天たちは家への道を行く。
ぞろぞろと進む一同に対して、あまりついていっていないうさぎと星野はぽつん、と公園に立ちすくんだ。
しかし、ぱちっと目が合うと、うさぎはかああっと顔を赤くして、慌てて夜天たちの後を追った。星野はくしゃ
くしゃと頭をかくと、その後についていった。
3
火球も交えた宴会は遅くまで続いていた。まことの作った料理を食べ、お酒代わりのシャンパンを飲む。
「夜天く〜ん、美奈子そろそろ帰らないといけないから、送っていってぇvv」
「はぁ?全く・・・・・・・・何酔っ払いみたいにしてるんだよ。ホラ、アルコールなんて飲んでないんだから
ちゃんと起きて」
「もう、いいじゃない。気分よ、気分」
「はぁ・・・・・しょうがないなぁ。じゃあお姫様、お手をどうぞ」
「きゃぁ、素敵っ!やっぱり夜天くんって王子様みたいvv」
「では、ちょうどいいですし、そろそろお開きにしましょうか。水野さんたちは私が送りましょう」
「え、でも・・・・・・」
「お気になさらず。車ですし。そうだ、プリンセスもいかがです?たまにはドライブというのもいいものですよ」
「そうですね。では、ご一緒させていただきます」
「え、ちょっと待てよ。大気の車って6人も乗れたっけ?」
「いいえ。5人乗りです」
「だったら一人乗れねーじゃん。愛野は夜天が送るとしても・・・・・・・」
「何を言ってるんですか、星野。月野さんはあなたが送るんですよ」
「「え!!?」」
うさぎと星野の声が重なる。しかし、大気も夜天も当然、という顔を見せた。
「僕、二人も送るなんてやだからね。めんどくさいし」
「車に乗れない以上、仕方ありません。残っているのは星野しかいないでしょう。ま、それが嫌なら私が
3人を送ってくる間、家で待ってるんですね」
「じゃぁ、星野。後はよろしく。くれぐれも送り狼にならないように」
「ちょっ、こら!お前ら・・・・・」
文句を言う前に、全員が外に出て行ってしまった。しーんとした沈黙が流れ、星野は舌を打って髪をかき
あげた。
「ったく・・・・嵌められた」
「えっと・・・・・・」
「あ・・・・・・い、いや、送るのが嫌だって言ってるわけじゃねーぞ。なんていうか、その・・・・・・」
言葉に迷って、泳がせる。そして二人の顔が真っ赤に染まった。
「えっと・・・・・・どうする?車がいいなら大気、待ってるか?」
「・・・・・・・・ううん、帰る。あ、一人でも大丈夫だから・・・・・」
「馬鹿。こんな夜に一人で帰せるか。・・・・・・・帰るんなら、送るから」
「・・・・・・・・うん、ありがと」
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