馬鹿みたいに想うこと
「・・・・・・あ」
天気がよくて、庭を散歩していたその時。木の下で眠っているあいつを見つけた。
「こんな所で寝ちゃって・・・・・・・風邪引いちゃうよ?」
無防備にすやすや眠る姿は、戦闘中からは考えられないかな。まあ、情けない姿の時からは思い
浮かぶかもしれないけど。
でも、やっぱり仕事に誇りを持ってて、かっこいいって思ってるよ。
まあ、絶対に言ってやることなんかしないけれど。
「ヨザック?」
ちょこん、と隣にしゃがみこんでみる。だけど、むにゃってちょっと身じろぐだけで、起きる様子はない。
「ヨザックー?起きないの?」
つんつんって髪を引っ張ってみる。それでもヨザックは気持ち良さそうに眠っている。
ま、起こすつもりはないけどね。だって、珍しくヨザックがこんなに気持ち良さそうに眠ってるんだもの。
上司として、そして・・・・・恋人として。起こすのはかわいそうって思うんだよ。
僕はヨザックの隣に座る。ちょうど木陰で本でも読みたいって思ってたからちょうどいい。ここで読んで
いっちゃおう。
あ、確かにここは気持ちいいかも。太陽の光が少し当たって、そして風もちょうどよく吹いていて、眩しく
ない程度に木の葉が影を作ってる。
あったかくて、気持ちよくて。僕もなんか眠くなってくるよ。
「ん・・・・・・」
あれ、起きたかな?隣で声が聞こえたから、僕はチラッと見てみる。
すると、むにゃむにゃと口が動いて、声が聞こえる。
「・・・・か・・・・・」
「え?」
「げ・・・・か・・・・・・猊下・・・・・」
「・・・・・・ヨザ・・・・・」
僕の夢、見てるの?
君の夢の中に、僕がいるの?
「ヨザック・・・・・」
「猊下・・・・・」
くーくー眠りながら、僕を呼ぶ声が聞こえる。
こんなに無防備に眠って、僕の夢を見てるの?
こんなに幸せそうな顔をして、僕と一緒にいるの?
「・・・・・・・ヨザック」
名前を呼んだら、胸が熱くなる。君に触れたら、触れた所が熱くなる。
そうしたら、君にもっともっと名前を呼んでほしくなって、もっともっと触れて欲しくなるんだ。
「・・・・・・ねえ、ヨザック」
返事をするわけはないけれど、僕は彼の名前を呼ぶ。
やっぱり、彼は反応を返さない。
でも、それでいいんだ。まだ眠ってて。眠ったまま、僕の言葉を聞いていて。
「僕はいつも言ってるよね。他の誰を犠牲にしても、渋谷だけは救ってって」
「ん・・・・」
あ、今のはまるで返事みたい。眠ってるのに器用だね、ヨザック。思わず苦笑して、僕は続けた。
「その言葉にね、嘘偽りはないよ。大賢者としても、村田健としても。僕は渋谷を助けて欲しいって思って
るんだ」
でも・・・・・・でもね。
ほんのちょっと・・・・・ほんの、ちょっとだけ。
渋谷を助ける君を見て、僕はこんなことを思ってしまうんだ。
「君が、僕だけの君でいればいいのに」
「君が見つめるのは、手を伸ばすのは、僕だけでいればいいのに」
僕は膝を抱える。
だって、情けないじゃないか。こんなことを言っちゃうなんて
相手が眠ってるとはいえ、誰にも、君にだって、言うつもりなんかなかったのに
こんなこんな、情けないこと
馬鹿みたいに、情けないこと
情けないって、馬鹿みたいって思うよ
だけど、だけどそれども
そんなことを思ってしまうほど
「・・・・・・・やっぱり僕は、君のことが好きなんだ」
馬鹿みたいに、情けないくらいに
君のことが好きなんだ
「村田ー!」
ぶんぶんと手を振りながら、渋谷が走ってきてる。
もう仕事、終わったのかな。それとも抜け出してきたのかな。
ま、いつもの彼から考えると、やっぱり後者かな。
「ここだよ、渋谷」
「あ、そんな所に・・・っと」
僕がしーっと指を立てると、渋谷は口を押さえる。
「ヨザック、寝てんの?」
「うん。なんか熟睡してるみたい」
「へえ、珍しいな。ヨザックみたいなタイプって気配で起きるもんだと思ってた」
「そーだね」
「・・・・・よっぽど気持ちのいい存在が側にいんのかな?」
「え?」
「・・・・・いいやっ、なんでもない!それより村田、久々に一緒にキャッチボールしようぜ」
「・・・・・・・ん〜、まあいっか。それより君、仕事終わらせたの?」
「・・・・・人間、息抜きも必要っ!」
「君、魔族でしょ」
やっぱり後者だったか。ま、渋谷らしいけどね。僕は本を片手に立ち上がる。
そして一度チラッと渋谷を見て、さっさと先に行く後ろ姿を確認すると、ヨザックの方を向いて軽く額に
キスをした。
「僕のこと、想ってくれてありがとう。とっくにバレてるよ、狸寝入り」
ちょっとだけ笑って、僕はその場を離れた。
だから、ヨザックが僕の言葉を聞いて、どうしたかなんて、僕は知らない。
どんな顔か、なんて僕には分からないけど、一つだけはっきりしたことが一つ。
それが僕の、大好きな彼だってこと。
短編ですが続きがあります。
村田が行ってしまった後の、狸寝入りヨザック。→