■ 呪縛 〜壊れた人形〜
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ふと、視界の端にヨザックを見つけた。暇だったし、ヨザックが何をしてるのか気になっ
たから近づいてみる。
「なにしてんの?」
「あ、坊ちゃん」
「・・・って・・・・裁縫?これ、村田の服じゃん?」
「ええ。さっき猊下の部屋で見つけたんです。ここの所がちょっとほつれてたから、ちょっと
拝借してきちゃいました」
「へえ・・・・なんかヨザック、奥さんみたいだな」
「あらやだ、嬉しいっvv」
「いや別に褒めたわけじゃないんだけど・・・・・まあいいか」
俺はヨザックの隣に座る。ヨザックはそのまますいすいと縫っていく。
へえ、上手いもんだな。
「裁縫が珍しいですか?」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだけど、上手だなーって」
「あはは。なーんか昔から手先は器用だったんですよねぇ」
「ふーん。じゃあ、グヴェンダルに弟子入りしたら?すぐに猫でも犬でも作れるようになるよ」
「いや、それはちょっと・・・・・」
ヨザックはふいと顔を背けてしまった。あはは・・・・まあ、気持ちは分かる。
「弟子入りはともかくとして・・・・・なんか作るっていうのはいい案かもしれないですけど
ねぇ」
「え?」
「あ・・・・いえね。なんかこの頃、猊下のご様子が変なんですよ。だからなんか作ってあげ
たら少しは元気が出るかなーって」
「ヨザック・・・・・」
「あはは〜、なんてね。俺がそんなことしたって、猊下が元気になるわけないですよ
ねぇ」
「そんなことないって!村田、ヨザックのこと大好きだからさ!きっと喜ぶよ」
「・・・・坊ちゃん」
「それにさ・・・・・村田、言ってたんだ」
「え、何をです?」
「・・・・へへっ、内緒!」
「え、なんですかぁ、それは〜・・・・教えてくださいよ」
「ダーメ!気になるんなら村田に聞けば?村田がヨザックが帰ってくる前日に、俺に言っ
た言葉v」
俺はそういい残して、その場を後にした。
このくらいの意地悪、いいよな?だってあの時の村田、男の俺から見ても可愛かったし。
簡単に知っちゃうのって、なんか悔しいしな。
☆ ★
やれやれ。陛下に中途半端に教えてもらったから、なんかもやもやするなぁ。
でも、ホントになんて言ってくれたんだろ・・・・はっ、まさか愛してるとか!?
・・・・・んなわけないか。
虚しくなるから考えるのをやめようと思った。猊下に聞いても教えてくれるわけないしなぁ。
俺は猊下の部屋までくると、こんこんとドアを二度ノックした。
「げーいかー、グリ江ちゃんですよー」
そう言ってガチャリとドアを開ける。中では猊下が、ベッドの中で眠っていた。
少し汗をかいている。冬なのに寒いんだろうか。俺はそっと猊下の汗を拭い取る。
「なんか、この頃よく寝てるよなぁ・・・・猊下って」
そんなに仕事が大変なのかな。まあ、猊下の仕事量って半端じゃないし、しょうがないよ
な。俺は軽くため息をつくと、猊下の目のつく所に縫った服を置いた。
簡単にメモを残し、俺はそのまま部屋を出ようとした。
「ん・・・・・」
その時、猊下の声が聞こえた。俺は思わず振り返る。猊下の側に近寄ると、さっき拭った
はずの汗がまた浮き出てきていて、なんだか辛そうな表情をしているのが分かった。
俺はもう一度汗を拭う。すると、苦しそうに息を乱して、猊下は寝返りを打った。
「猊下・・・・?」
「んんっ・・・・はあ・・・・・」
息を乱してまたごろりと寝返りを打つ。かけていた毛布が乱れ、猊下の夜着が肌蹴た。
そこから少しだけ見えた肌にどきりとして、俺は慌てて毛布を被せる。
やばいやばい。狼になるところだった。
猊下とは恋人同士だけど、そういうことはまだなんだよな。もうそろそろ理性も限界だけ
ど・・・・・・手、出し辛いんだよなぁ。
何も知らない純真な少年って感じで。俺で汚してしまうのを、なんとなく恐れてる感じが
する。
「嫌な夢・・・・見てるのかな」
猊下の前髪をそっと分ける。そしてじっと猊下の顔を見つめて、その分けた前髪から覗い
た額に、そっと口付けを落とした。
「おやすみなさい・・・・・いい夢を」
俺がそう言うと、気のせいか、猊下が気持ち良さそうに眠り始めたような気がした。
俺はホッと息を吐くと、猊下の頭を軽く撫でて、部屋を静かに出て行った。
手に残ったあのふわふわの感触を、ちゃんと残して。
「・・・・・・・・・あ」
再び任務に戻ろうと回廊を歩いていると、サラレギー陛下に会った。このお方は苦手だ。
昔、えらい目に合わされたからな。今は友好的だけど・・・・仮面のしたの笑顔は油断ならない。
「やあ。グリエ・・・・ヨザックだっけ」
「・・・・はい」
「大賢者様の部屋は向こうでいいのかな?」
「・・・・猊下に何か御用ですか?」
「やだな。あからさまに警戒した顔しないでよ。僕はただ、この花を届けに行くだけなん
だからさ」
「それは・・・・」
「これ?ユーリの娘のグレタ姫と一緒に罪に言ったんだ。お見舞いにってね。なんか具合
が悪いみたいだから」
「・・・・・それで、姫は?」
「彼女なら勉強の時間だからって連れ戻されたよ。だから僕が代わりに彼女の分も、ね」
「・・・・そうですか。猊下も喜びますよ。でも、今猊下は眠っていますんで、出直した方が
いいと思いますよ」
「いいよ。花を持っていくだけだから。飾ったらすぐに出て行くさ。彼の体の負担になる
ようなことはしないよ」
「・・・・それならいいです。では、俺はこれで」
「うん。お仕事頑張ってね」
じゃあねーと手を振る姿を見届けてから、俺は再び歩き出した。
やれやれ。ほんとに食えない方だ。
俺はちらりと後ろを向く。後姿のサラレギー陛下を見ると、ついため息が出た。
「猊下の嫌うタイプかもしれないなぁ・・・・・」
☆ ★
なんだろう・・・・・ふわふわしていい気持ち。
頭を優しく撫でられる感触とか、額に落ちる唇の温かさとか。
すごく気持ちがいいんだ。とってもいい気分・・・・・
「ん・・・・・」
なんだかごそごそとやっている音が聞こえて、僕は目を覚ました。
起き上がってボーっとした頭を起こすと、びくっと体が強張る。ゆっくりと振り返った、
その男の顔を見て。
「・・・・やあ、おはよ」
「・・・・・・・」
「なあにー、その目は」
「・・・・起き抜けに嫌なもの見た」
「酷いなぁ。お見舞いに来たのにその言い方。ホラ」
「・・・・・・いらない。捨てて帰って」
「でも、グレタ姫が摘んだ花もあるんだよ」
「だったらグレタの摘んだ花だけ残して、あとは捨てて」
「もう僕のと姫のと一緒にしちゃったからわかんないし」
「・・・・・・・」
僕はあからさまに嫌な顔を見せてやって、バサッと毛布を被ってもう一度寝転がった。
「そういえばさぁ、さっき君の恋人に会ったよ」
「・・・えっ!?」
僕はガバッと起き上がる。さらりと言った一言が信じられなくて。
「まさか・・・・彼に何かしたんじゃ・・・!!」
「何もしてないよ。ただ普通に話しただけ。それでさ、僕がこの花を君に持っていくって
言ったら、きっと猊下も喜びますよって言ったんだ」
サラレギーはゆっくりと僕に近づく。ぼくはまたびくっと震えて、少しだけ後ずさった。
だけど、いくら後ずさってもここはベッドの上。結局は追い込まれてしまう。
サラレギーはとん、と僕の横の壁に手をつくと、目を閉じて僕にゆっくりと口付けた。
「んっ・・・・・」
「・・・・こういうこと、してるとも知らずにね。かわいそうだよねぇ」
「・・・うるさいっ・・・・」
「そういう口も可愛いよ。僕だけしか知らない君だしね。特にここをこうすると・・・・・」
「ひあっ・・・・!!」
ズボン越しに下に触れられて、思わず声が上がる。
「や・・・・めてっ・・・まだこんな日が高い・・・・・」
「大丈夫。最後までしないよ。ちょっと触るだけ・・・・」
「あ、あんっ・・・・」
「毎晩ここ触ってるから、ほんとに敏感になってきてるよね。気持ちいい・・・?」
「だ・・・れがっ・・・・んんっ」
「そういうこといっても、可愛くしか見えないよ。ホラ・・・・」
「や、あんっ・・・・・」
ズボン越しにそっと触られて、体が反応してしまう。
そんな自分の体がとてつもなく嫌で、僕はぎゅうっとシーツを握り締めた。
声なんか出したくない。感じたくない。そう思ってるのに、やっぱり体は正直で。
はっはっと息が乱れてきて、顔が火照ってきた。布越しの愛撫が気持ちよくて。
でも、どこか物足りなくて。僕はサラレギーの服を握った。
「んふっ、あ・・・・・やあ・・・・・」
「・・・・いつも言ってるよね?素直に言ったらほしいものあげる」
言いたくない。言いたくない。
こんな、快楽になんか負けたくないよ。
だけど・・・・だけどっ・・・・・
「さ・・・・ら・・・・っ・・・」
「なぁに?」
「お・・・ねが・・・・直接、触って・・・・?」
「直に触れて欲しい?」
「んっ・・・・」
僕はこくこくと首を縦に振る。すると、サラは満足そうに笑った。
「よく出来ました」
「ひゃあっ・・・!」
ズボンの中に手を入れられて、肩がびくんとは寝る。だけど、どんどん下が熱くなって
いくのが感じられた。
気持ち、いい・・・・・
眩暈がするくらい気持ちがいい。
「ね、このまま手で触るのと・・・・口で舐めるの、どっちがいい?」
「そ、んなことっ・・・・・」
「言わないと、やめちゃうよ?」
ぴたりと手の動きが止まる。途端に体がびくんと反応する。
「やあっ、やめないで・・・・・」
「だったら言って?口と手、どっちがいい?」
「ふっ、ぅん・・・・・・」
「言っとくけど、正直に言うんだよ。僕は君がどっちを望んでるかちゃんと分かってるん
だから。選択肢は一つだけ、でしょ?」
嫌だ、嫌だ。
浅ましく強請ったりしたくない。
死ぬほど悔しくて、恥ずかしくて、僕は涙を流す。
だけど、急に止められてしまった愛撫を欲しがる体を止められなかった。
「サラッ・・・・」
「ん?」
「シ、て・・・・・」
「どっちで?手?口?」
そう言って、先端の方をついっと口でなぞった。
「ひああっ!く、口っ・・・・口でしてぇっ・・・・!!」
「舐めてほしい?」
「うん、うんっ・・・・・いっぱいシて・・・・舐めてっ・・・・」
「・・・・いい子だね」
そういわれて、体をベッドに倒される。そしてズボンと下着を脱がされて、その途端に
くちゅリと熱いものに包まれた感触がした。
「ああっ!!」
「ホント・・・・可愛い反応するね。どう?気持ちいい?」
「き、もちぃ・・・・気持ち、イイ・・・・」
「じゃあ、もっとしてあげる」
「んっ・・・・うん・・・・もっとシて・・・・・」
「いい子・・・・可愛いよ。もっと僕に強請って・・・・」
「あ、ああんっ・・・・!!」
それからのことは、もうよく覚えていない。
ただ、最初に言ったように本番はしなかったみたいだ。体も疲れてるみたいだしねって、
サラレギーは笑ってた。
だけど、散々口や手だけでイかされて、体はどっと重くなったように感じられた。
怖い・・・・どんどん僕の体じゃないみたいに思えてくる。
怖いよ・・・・誰か、助けて・・・・・・
「よざっく・・・・・」
助けてくれるわけなんかないのに
僕はここにはいない愛しい人の名前を、ただ壊れた人形みたいに呼び続けた。
