■ 呪縛 〜罪の重さ〜
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「ああっ、ん・・・・ひああっ!!」
「くっ・・・・そろそろ、イクよ・・・・・中に出すからね」
「んっ、うんっ・・・・・出して・・・・はやくっ・・・・・あ、あああっ!!」
体が大きく跳ねる。乱れる息を必死で整えようとしたけど、なかなか収まらない。
それと同時に、体の熱もまだ収まってくれなくて、僕は自分を見つめてくるサラレギーか
ら目を逸らした。
「まだ足りない?」
「そんなことっ・・・・・あんっ!」
中に入ったままだったから、少し動かされて体が敏感に反応する。一度快感を与えられる
と、もうごまかしは聞かない。僕はサラレギーの背に手を回した。
「もっと・・・・・あんっ、もっとぉ・・・・・」
「・・・・ホント、可愛い。好きだよ・・・・」
「ん、んふっ・・・・ふぁ・・・・・」
ちゅくちゅくと唾液が重なり合う音がするキスをされる。それを強請るかのように、サラ
レギーの首に手を回して抱きつく。
こんな夜が、一体何夜続いたのだろう。
もう、それを考えることも億劫で、ただ僕は目を閉じて快感に溺れた。
「は・・・・あ・・・・・」
ようやく終わって、サラレギーのものが中から抜かれる。僕はそれにさえも反応しそうに
なって、必死でそれを抑えた。
「はい、うつぶせになって。中にあるの出すからさ」
「・・・・いい。自分でする・・・・・」
「いいから、ほら」
「やだっ・・・・」
抵抗しても、力では叶わない。簡単に体をうつぶせにされて、指をつぷりと入れられた。
「ひゃっ・・・!!」
「・・・・あれ?気持ちいい?」
「そんなこと、なっ・・・・・」
「ホント、素直じゃないねぇ・・・・そういう所も可愛いけどさ」
クスクスと笑いながら、僕の中にある白濁を全て出す。びくびくと震える体を必死で抑え
るように、僕はシーツを握り締めた。
すると、そんな僕を見てか、サラレギーがくすりと笑ったのが分かった。そして振り向く
間もなく、指を抜かれたそこがぴちゃりという音と供に生暖かい感触で包まれた。
「ひああっ!!」
「イッたばかりだからますます敏感になってるね・・・・・ちょっと舐めただけだよ」
「い、いやっ、舐めないで・・・・・」
「ダメ。なんか体は喜んでるみたいだし。せっかくだし、もう一回イッちゃいなよ」
「やだっ・・・・あ、あんっ・・・・」
嫌だと思っても、体は正直だった。生暖かい感触が、気持ち悪いはずなのに体は気持ち
いいといっている。
「あんっ、もっと・・・・」
「もっと、なに?」
「それじゃないの、いれて・・・・・」
「それじゃないのって、なに?」
「っ・・・・サラの・・・・サラの、いれて・・・・・サラのがイイッ・・・・」
「・・・・・いいよ」
顔を上げると、振り向いた僕に口付ける。そしてそのまま仰向けにされて、僕はまた、
快感の渦に飲まれた。
「体、平気?」
「・・・・平気。たいしたことない」
「・・・ほーんと、態度変わるよね。してる最中はあんなに可愛いのに」
「うるさい。それ以上言わないでよ」
「はいはい。分かってますよ。じゃあね」
僕はじろりとサラレギーを睨みつけると、静かに部屋を出て行った。
☆ ★
部屋へ戻る途中、窓から見えたつきに気がついた。綺麗な満月だった。
僕はそれを見上げると、何故だか目頭が熱くなってきた。慌ててごしごしと目を擦る。
「このまま・・・・どこまで流されていくんだろう」
夜空に浮かぶ月と満面の星空を見て、僕は小さく呟いた。すると、かつんという靴音が
聞こえ、僕はハッと振り返った。
「ヨザック・・・・・」
「あれ、猊下じゃないですか。こんな所で何をしてるんですか?」
「あっ・・・・えっと・・・・・ね、眠れなかったから・・・・・散歩してたんだ」
必死で動揺を隠しながら言うと、ヨザックはクスクスと笑った。
「昼間、昼寝ばっかりしてるからですよーぉ」
「ひたっ」
むにっと鼻をつままれて、思わず声を上げる。
「もぉ、ヨザック!」
「あはは、すみません。ホラ、部屋に戻りましょう。お送りしますよ」
はい、と自然に手を伸ばしてくる。僕は一瞬躊躇するけど、おずおずと手を伸ばして
ヨザックの手に触れる。ヨザックはにこ、と笑って、僕の手を握り締めた。久しぶりに
触れた彼の手は、冷たくも熱くもなかった。
とても、暖かかった。そのぬくもりに、思わず涙が出そうになった。
こんな自然なやりとりがとても嬉しい。それだけで涙が出そうになるなんて。
僕はヨザックを見上げると、ぷるぷると首を横に振って目をごしごしと擦った。
「はい、とうちゃーく。じゃあちゃんとお布団被って寝てくださいね。この頃冷えますから」
「なんか子ども扱いしてない?」
「してませんよー。猊下は立派な大人の方です」
「100歳台の人に言われても、なんだかなぁ」
僕はもそもそと布団に入る。すると、ヨザックがベッドの近くに置いてあるベッドに座る。
「・・・・なに?」
「猊下が眠るまでここにいます」
「・・・・・・・やっぱり子ども扱いしてない?」
「違いますって。ホラ、なんか最近、猊下の様子が変なので。もしかしたら寝不足なせい
かなーと思いまして」
「っ・・・・・」
びくりと肩が震える。
やっぱりばれてたんだ。そうだよね。ここのところ、ほとんど昼間眠ってるんだもん。
ヨザックの事だって、ずっと避けてた。会うのが怖かったから。
「だから、ここにいることにしました。誰かが側にいたら、少しは安心するかなと思って」
優しく笑って、僕の頭を撫でる。
大きくて無骨な指。でも優しくて、あったかい。僕はじわりと涙が滲んでくるのに気づい
て、布団を頭までかぶった。
「猊下?」
「・・・・・何でもない。そこにいて」
「あ、はい」
僕の言葉に従って、そのまま黙ってそこにいた。
・・・黙って、じゃないか。なんか鼻歌歌ってる。普段ならうるさいって思うその歌も、なん
だかすごく優しくて嬉しい。僕は溢れる涙を毛布に滲ませ、ぎゅうと握り締めた。
好き・・・・好き。大好き。
好きなのは、愛してるのは、ヨザックだけなのに。僕は一体何をしてるんだろう。
ヨザックに触れたい。抱きしめて欲しい。いっぱいキスをしたい。
好きだよっていっぱい言いたいのに。
それさえも出来ない。
ごそごそと何か音がする。僕はちらりと目を毛布から出す。ヨザックは机の上になんか
色々裁縫道具を置いて、鼻歌を歌いながら何かを縫い始めた。
「・・・・・・・何やってんの?」
「あ、すいません。うるさかったですか?」
「別に・・・・・うるさくないけどさ。なぁに?それ」
「グレタ姫に頼まれましてね。ぬいぐるみを作ってるんですよ」
「ぬいぐるみ?それはフォンヴォルテール卿の専売特許じゃない?」
「可愛い猫ちゃんがほしいって言われて。親分が作るとなんか妙な猫になるじゃないです
か。まあ、あれはあれで可愛くて好きらしいけど、ちゃんとした猫のぬいぐるみがほしい
らしいんですよね」
「ふーん・・・・・」
僕がじっとそれを見つめていると、ヨザックは鞄から何かを取り出した。
それは耳にオレンジのリボンをつけた可愛らしいウサギのぬいぐるみ。
ヨザックが笑顔でそれを僕に差し出してくる。
「え?」
「はい、猊下」
「え・・・・え?」
「猊下にあげます。俺のぬいぐるみ作第一弾」
どうぞ、と差し出してくるから、僕はおずおずとそれを受け取った。
「でも・・・・なんで?」
「実はですね、この間陛下と話してたんですよ。猊下がこの頃元気がないからどうしたら
元気になってくれるかなーって。で、俺が何か作ったら元気になってくれるかなーって
言ったら、陛下は絶対喜んで元気になるって言ってくれたんですよ。だから作ってみました」
「・・・・・・・・」
「何があったのか分かりませんし・・・・・猊下が話したくないのなら、俺は聞きません。
でも、少しでも元気になって欲しいって思うから。これで元気になってくれるか分から
ないけど、受け取ってくれません?」
ころりと手の中で転がる、一匹のウサギ。
オレンジ色のリボンは、まるでヨザックを思い出させてくれるようで。
僕は気がついたら、ぽろぽろと涙を流していた。
「げ、猊下!?ど、どうされたんですか?あ、もしかして、これ嫌でした!?」
「ち、違っ・・・・そうじゃない・・・・・」
涙をごしごしと拭きながら、首を横に振る。
「嬉しい・・・・・」
「え?」
「ありがと・・・・嬉しい・・・・・」
「猊下・・・・・」
「ありがと・・・・・・・」
何でこんなに優しいの
僕は君を騙してるのに
こんなにも、酷いことをしてるのに
でも、君のしてくれること一つ一つが嬉しくて
嬉しくて、涙が出てくる
100の宝石を贈られるより
100の黄金を贈られるより
この小さなウサギのぬいぐるみの方がこんなにも嬉しい
「猊下・・・・」
「うっ・・・・ふぇ・・・・・」
涙を拭っていると、ヨザックの手が伸びてきて、僕の涙を一粒指で掬い取る。僕が顔を
上げると、ヨザックは目元にそっと口付けて、涙を吸い取った。
僕はゆっくりと目を閉じる。すると、ヨザックの手が頬に伸びて、そのあとゆっくりと
唇が重なった。
「ん・・・・・んっ」
「猊下・・・・」
久しぶりのヨザックとの口付け。頭の芯がくらくらしてくる。
僕は手の中にいるぬいぐるみを抱きしめたまま、ヨザックのキスを受けた。
重ねれば重ねるほど、涙が止まらない。
いつものサラレギーの奪うようなキスとは違って、壊れ物を扱うかのような優しいキス。
もっとして欲しい。僕はそう願った。
だけど
「猊下・・・・・好きです。俺にもっと、可愛い顔、見せてください・・・・・」
「・・・っ!!」
『可愛いよ・・・・もっとその顔を見せて』
サラレギーの言葉と、ヨザックの言葉が重なり合う。僕は体の震えを押さえきれず、
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
そんな僕に気づかず、ヨザックはゆっくりと僕の夜着に手をかける。その手を、また僕は
サラレギーと重ねてしまい、バシッと跳ね除けてしまった。
「あっ・・・・・」
「・・・・・・猊下」
「あ、その・・・・ご、ごめんっ、僕・・・・・」
「・・・・・・・・」
ヨザックは何も言わない。どうしよう。怒ったんだろうか。
僕はヨザックの顔を見れず、ぎゅうっと目を閉じて、俯いてしまう。すると、ふわりと
暖かいものに包まれ、僕は顔を上げた。
「ヨ・・・・ザ?」
ヨザックは僕を抱きしめていた。つぶれないように、とても優しく。
「すいません。どうかしてました。いや、その・・・・つい、止まらなくて・・・・・・」
「・・・・・ヨザ・・・・・・怒って、ない?」
「怒るわけないですよ、俺が悪いんですから。ホントにすみません。軽率でした」
ごめんなさい、と手を合わせて謝ってくる。
どうして君が謝るの?謝らなきゃいけないのは僕の方なのに。
たくさんたくさん、謝らなきゃいけないことがあるのに。
「ホラ、もう寝てくださいな。夜遅いんですから」
「ヨザ・・・・・」
「大丈夫ですって。もう何もしませんから。ただここにいるだけです。勿論猊下が嫌なら
出て行きますが・・・・」
「・・・・ううん。ここにいて」
僕は首を横に振って答える。するとヨザックは嬉しそうな顔を見せて、僕の前髪をそっと
撫でて、横に分けた。
「ここにいますよ、猊下。だから泣かないで」
「・・・・・・・・うん」
毛布を頭までかぶる。
泣かないで、と言われたけれど。
僕はまた涙を流した。
