• ■ 呪縛 〜終わらない記憶〜 ■




    朝から、なんだか体が重い。
    まあ、今日に始まったことじゃないのだけれど。
    僕は今日の分の仕事を部屋に回してもらい、それをさっさと済ませると、すぐにまたベッ
    ドに潜り込んだ。
    (腰、痛い・・・・)
    サラレギーと関係を持ってから、一日も空けず、毎夜体を重ねている。体力的に限界がある。
    だけどサラレギーにそれをいっても、聞き入れてはくれないんだろうな。僕は小さくため
    息をついて、頭まで毛布をかぶった。
    どうせ、今夜もしなきゃならないんだ。今のうちに眠っておかなきゃ。
    いつまでも続く、この悪夢・・・いいや、現実。僕はそれを受け入れなきゃいけない。
    だけど、こうして眠っている間くらい、そのことを忘れたい。
    そして、本当に好きな人のことを考えたい。






    「ヨザック・・・・」
    小さく呟いて、一粒の涙をこぼし、僕は目を閉じた。









    「ん・・・・」
    もぞりと体を動かす。なんだか、少し息苦しい。
    「んんっ、はあ・・・・・」
    ぴちゃりと濡れた音が、耳に届く。僕は重くなった瞼を開いた。
    「あ、起きた?」
    「っ!!」
    目の前にはサラレギーがいて、僕の体を跨いでいた。そして僕が何かを言う前に、唇を塞ぐ。
    「んんっ・・・!!」
    深くて荒っぽい口付け。僕は押し返そうとしたけれど、体力の落ちている僕には、サラレ
    ギーを退かす力なんて残ってなかった。だけど、それでも僕はがくがくと手を震わせて、
    サラレギーの肩を掴む。
    「んふっ、はあ・・・・・」
    激しい口付けに、さらに体力が落ちていく感じがした。体の力がゆるゆると抜けていき、
    唇を離されるときには、すっかり抵抗力がなくなっていた。
    「・・・・・可愛い」
    「んあっ・・・!」
    サラレギーは自分の膝で、ちょいと僕の下肢を弄る。それだけでもびくりと反応してしま
    うこの体が恨めしかった。
    「はあっ、ん・・・・・・」
    「最初はただのお見舞いだったけど・・・・・君の可愛い寝顔を見てたら我慢出来なくなった」
    「やだっ・・・・こんな時間から・・・・・」
    「うん。最後まではしないよ」
    「でも、やだっ・・・!!」
    この間も触るだけって言われて、あんなに何度もイかされた。あの時の疲労感を、今でも
    覚えてる。








    「そんなにイヤ?」
    僕は何度も首を縦に振る。するとサラレギーは何かを考え込むようにすると、ふっと笑っ
    て僕のズボンの中に手を入れた。
    「やあっ・・・!」
    「大人しくして。大丈夫」
    大丈夫なんていわれたって、大人しく出来るわけない。僕はぎゅうっと目を閉じて、ぶん
    ぶんと首を横に振った。すると、きゅっと言う音がする。何の音かと思って、恐る恐る
    目を開けようとしたが、急にサラレギーがぎゅっと僕のに触れた。
    「あんっ・・・!やめ、て・・・・・」
    強い刺激に眩暈がする。くちゅくちゅと言う快楽を感じている印のその音を聞きたくなく
    て、僕は耳を塞いだ。それでも、サラレギーのくすりと笑う声が聞こえた。
    その直後、何か冷たいものが、僕の秘部の中に入っていくのが感じられた。
    「ああっ!な、何こ、れ・・・・・」
    「これ?媚薬だよ。聞いたことくらいあるでしょ?」
    「や、めて・・・・・あ、あんっ」
    「即効性じゃないからね・・・・じわじわと感じて来るんだ。結構強いよ」
    「やだっ・・・・・やあっ・・・・」
    「効き出すのは、夕食の時くらいかな。その時が楽しみだよ」
    サラレギーはそう言って、僕の服をきちんと整え始めた。
    「夕食、ちゃんと出て来るんだよ。そうしないとバラしちゃうからね。それで、我慢でき
    なくなったら僕がいっぱい抱いてあげるから」
    「そん、な・・・・・・」
    「君から可愛く強請ってくれたら、ちゃんとイイものあげるから・・・・・じゃあね」
    サラレギーは僕の額にキスを落とすと、部屋を静かに出て行った。
    僕ははあ、と息を乱して、ベッドの中でうずくまる。今はまだ余韻が残っているが、しば
    らくしたら何とか消えそうだった。
    だけど、塗られた媚薬のことは気になる。本当に夕食時、効いてくるのだろうか。それを
    考えると、時間がたつのが怖い。僕はぎゅっと枕を抱きしめて、ゆっくりと目を閉じた。










    そして、数時間後。サラレギーの言っていたとおり、少しずつ効き始めてきていた。体が
    熱くなってくるのを感じる。
    「はっ、はあ・・・・・」
    息が乱れる。頬だけじゃなく、体全体が熱くなる。
    自分だけじゃどうにも出来なくて、僕はただ、襲ってくる快楽を受け入れていくしかな
    かった。
    すると、ドアをこんこんとノックされる。小さく返事をすると、兵士が夕食の時間ですと
    教えてくれた。
    僕はびくりと体を動かす。本来なら、こんな状態で夕食なんて冗談じゃない。
    だけど、行かなかったらばらすというサラレギーの言葉を思い出す。僕は震える声を何と
    か抑えて、着替えてから行くとだけ告げた。
    いつもの黒の詰襟の服を取る。まだ何とか動けそうだ。だけどだんだん聞いてくるから、と
    サラレギーは言っていた。
    今でも十分効いてきているというのに、まだこれ以上効いてくるというのだろうか。僕は
    乱れる息を抑えて、何とか服を着替えた。









    夕食の席に行くと、もうみんなが揃っていた。勿論サラレギーもだ。
    僕は誰にも気づかれないように、キッと彼を睨む。だけどサラレギーは全く気にしない
    様子で、夕食に手をつけ始めた。
    みんなも夕食を食べ始める。だけど、じわじわと襲ってくる快楽があまりにも強すぎて、
    僕はもうフォークもまともに持てず、震えていた。すると、隣にいた渋谷が不思議そうな
    顔を見せる。
    「どーしたんだ?村田。食べないの?」
    「あ・・・・う、ううん・・・・・・・っ!」
    びくっと体が震える。どんどん体が火照ってくるのが分かる。そんな僕を見て、渋谷が
    慌てたような声を出す。
    「ど、どーしたんだ?どっか具合悪いのか?」
    「猊下!いかがなされました」
    みんなが心配そうな顔をしている。だけど、愛想笑を振りまく余裕もない。僕はがくがく
    と震えて、ぎゅっとテーブルクロスを握り締めた。
    「具合悪いんなら部屋で寝てなきゃ。誰か、ギーゼラ呼んで!」
    「へ、いき・・・・・大したことない・・・・・」
    「そんな風には見えないよ!すっげー顔赤いぞ!熱、高いんじゃないのか?」
    「ホントに、大丈夫・・・・だからっ・・・・・」
    声を出すのも、今はすごく辛かった。早く、このどうにも出来ないこの気持ちを何とかし
    て欲しい。そう思って顔を上げると、サラレギーがゆっくり僕に近づいて、額に触れた。







    「んっ・・・・」
    「・・・・熱が高いね。僕の部屋によく効く薬があるから、それを飲ませてあげるよ」
    「え、サラの?」
    「うん。多分風邪だと思うし」
    「それだったら、ちゃんとギーゼラに診てもらわないと・・・・・」
    「それを本人が拒んでるんだからしょうがないでしょ。この大賢者様はすごく意地っ張り
    みたいだしね。大丈夫。僕の薬を飲めばすぐに良くなるよ。・・・・ね?それでいいでしょ?」
    耳元で、と息と供に吐き出された言葉にすら、びくりと感じる。もう自分の体がどうしようも
    ないところまで追い込まれたのが分かり、僕はこくこくと頷いた。
    「はい、これで決まり。じゃあ僕が運ぶから、みんなは夕食の続きをとってなよ」
    「でも・・・・」
    「こういうときは、あんまり大勢が至って体の負担になるだけだよ。多分明日の朝には
    落ち着くと思うから、その頃お見舞いに来なよ。ね?」
    「・・・・う・・・・ん・・・・・それもそうだな」
    渋谷はサラレギーの言うことに納得した様子だった。癪だけど、ちょっとだけホッとし
    た。すると、僕の体がふわりと宙に浮く。サラレギーが抱き上げたのが分かった。
    そのまま抱かれて、回廊の廊下を通る。その途中、サラレギーの声が耳に届いた。









    「・・・・もう、我慢できない?」
    こそりと耳元で囁かれる。びくんと体が震えた。そして僕は、唇を噛み締めて、小さく
    頷いた。
    サラレギーが笑ったのが、分かった。









    ☆ ★



    「んんっ・・・・あ、ふあっ」
    部屋が近かったため、僕の部屋に運ばれた。そしてベッドに下ろされるなり、深いキスを
    される。普段、行為を始める時は最初は必ず抵抗する。だけど、今はそんなことしてる余
    裕がなくて、僕はぎゅう、とサラレギーの首に手を絡めた。
    「珍しいね・・・・・そんなに我慢できないんだ」
    「んっ、は、早くっ・・・・・」
    「・・・・・いいよ。君が可愛く強請っていい子にしたら、何でもしてあげる。どう?僕の言う
    こと、ちゃんと聞く?」
    「き・・・・くっ・・・・聞くから、早くっ・・・・」
    「・・・・・いい子だね」
    僕の髪の毛を指で弄りながら、サラレギーはまた深く口付けた。
    こんなに気持ちがいいキスは初めてだった。媚薬のせいで、体全体が性感帯に変わる。
    「じゃあ・・・・服を脱いで。全部だよ」
    「自・・・・分、で・・・・?」
    「そうだよ・・・・ホラ」
    サラレギーが僕を離す。僕は震える手で、おずおずと服に手をかけた。
    今まで、自分で服を脱いだことなんてない。そもそも、最初から行為を強請ったことなど
    ないのだから当然だ。だけど、この時ばかりはどうにもならなくて、僕はゆっくりと服を
    脱いでいった。







    全て脱ぎ捨てて、ベッドの下に服が落ちる。すると、サラレギーが僕の肌に触れてくる。
    ちょい、と指先でなぞるようにして触れられただけで、体が大きく跳ねる。
    「あ、ああんっ・・・・やっ、もっと触ってぇ・・・・」
    「どこ?僕の手でも口でも、好きな所に持っていっていいよ」
    「ふあっ、ん・・・・・あ、あぁっ・・・・」
    がくがくと震える手を伸ばして、サラレギーの頭をぎゅう、と抱きしめる。
    こんなこと、したくないって思ってるけど、今はもう羞恥心も何もかも捨てて、ただあの
    快楽だけが欲しかった。











    「ここ、舐めて・・・・」
    僕の下肢へと持っていかせると、ふっと笑った気配がした。そしてサラレギーは僕のに
    ぴちゃりと舌を這わせる。
    「あ、ああっ!!」
    「気持ちいい?」
    「ん、うんっ・・・・もっと・・・・」
    「いいよ。いい子にするならいっぱいしてあげる」
    「するっ・・・・いい子にするから、もっとぉ・・・・」
    「・・・・・すごく可愛い。いいよ、もっとしてあげる」
    ぴちゃり、と舐める音がする。その音にさえ敏感に反応してしまう。
    気持ちが良くて、頭がどうにかなってしまいそうで。だけどそれでも、もっと続けて欲し
    いと思ってしまう。






    「あっ、ひああっ・・・・もうダメ、でちゃうっ・・・・」
    「いいよ・・・・出して」
    「あ、あんっ・・・あ・・・・あああっ!!」
    一つの快楽が外に吐き出された。だけど、それだけじゃ全然足りない。もっと、もっと欲しい。
    「まだ、足りない?」
    聞かれて、こくこくと頷く。
    「じゃあ、自分で入れる準備して。・・・・どうすればいいか、分かる?」
    「・・・・・・・・うん」
    小さく頷いて、サラレギーにおずおずと手を伸ばす。だけど、一度もしたことのないこと
    に戸惑いを隠せない。震えた手でズボンに手をかけると、そっと手で包み込み、ゆっくり
    と口に含んだ。








    「そう・・・・上手だよ」
    「んふっ、ん・・・・・」
    息苦しさで、思わず涙が滲む。だけど今はそれより、早くこの熱を何とかしたい。
    そうするにはどうしなきゃいけないのかも分かっていた。初めてながらも必死で奉仕して
    いると、少しだけ苦味が口の中に広がる。
    もうちょっと強くしたらいいのかな。僕はいつもサラレギーがやっているように刺激を
    強めてみた。
    「くっ・・・・そろそろ、イクよ。ちゃんと飲んで」
    「んんっ、ふ・・・・」
    頭を押さえつけられ、息苦しさが増す。そして、口の中に大量の苦味が広がって、僕は
    思わず口を離しそうになるけれど、サラレギーが頭を抑えてるからそれも出来なくて、
    僕はそのままそれを飲み干すしかなかった。








    「ぷはっ・・・は・・・げほっ・・・・」
    ようやく開放されて、苦しさのあまり咳き込んでしまう。すると、サラレギーが僕の顎を
    持って、口の端から流れる白濁を指で拭い、僕の口の中に入れた。
    「上手だったよ。これも4000年の記憶のおかげなのかな?」
    クスクスと笑って僕の頬にキスをする。だけど、そんなのじゃ物足りなくて、僕はぎゅ
    うっとサラレギーの首に手を回して抱きついた。
    「もっと、欲しい・・・・」
    「・・・・勿論。君の望むままに、望むものをあげるよ。だから、ね。ちゃんと自分で用意して」
    「まだ・・・・何かするの?」
    「だって、君のここはまだ慣らしてないでしょ?」
    「あんっ・・・・」
    指で秘部をなぞられて、思わず体が反り返る。ここも自分で鳴らさないといけない。
    そう思うと少し躊躇したが、しなければこの先はない。僕は自分の指を唾液で濡らす。
    そしてゆっくりと後ろへと指を入れた。
    「っ・・・あ、ああんっ!」
    「・・・・いい眺め」
    「やっ、見な・・・・」
    「見られたら感じるでしょ?」
    悔しいけど、そのとおりだった。指を動かすスピードは、自然と速くなる。たくさんの刺
    激が襲ってきて、もうどうでもよくなってくる。
    だけど、やっぱりこれ以上のものが欲しい。早く、たくさん欲しい。







    僕はゆっくりと指を抜く。そして目の前に座っているサラレギーに近づいて、彼の体を
    ベッドに倒す。僕はその体を跨いで自分からゆっくりと彼のものを中に入れ込もうと試み
    た。先端が当たっただけで、びくりと震える。僕はがくがくと震える体を抑えて、ゆっく
    りと中に入れ始めた。
    「はっ・・・・あ・・・・」
    慣れないことなので、まるで焦らされてるみたいにゆっくりだ。
    もっと、もっと早く。そうしなきゃ、体がどうにかなってしまいそうなほど、もう快感で
    狂ってしまっていた。僕がそうやって入れていると、サラレギーが僕の腰を掴み、一気に
    僕の体を下へと沈めた。







    「ひあああっ!!」
    突然奥まで入れ込まれて、声を張り上げる。イッてしまったのが、分かった。
    「あっ・・・・あ、あんっ、んんっ・・・・」
    僕は自分から腰を振ってしまう。そんなみだらになっていく僕の体が嫌で、ぎゅうっと
    目を閉じた。だけど、それでこの体を抑えてしまうことは出来なくて、必死に腰を振る
    ことしか出来なかった。
    「ほら、もっと動いてみて・・・・うん、上手」
    「あ・・・・んんっ、ふあ・・・・・」
    「どう・・・?気持ちいい?」
    「ん・・・・うんっ・・・・も、もっと・・・・気持ち、いいよぉ・・・・・」
    「だったらもっと自分から動いて・・・・」
    「あ・・・・ん、んんっ・・・はあっ・・・・」
    ぐちゅぐちゅという音が鳴り響く。だけど、今はもう僕は夢中で動いてしまっていた。
    「あっ、もうだめぇっ・・・・イッちゃうよぉ・・・・」
    「・・・・・まだダメ」
    ふっと笑って、懐から一本の紐を取り出す。そしてそれを僕のにきゅっと結びつけた。
    「やあっ、ほどいて・・・・」
    「ダメだよ。そんなに簡単にイッちゃってもつまんないじゃない。もっと、僕に乱れた
    その顔を見せて・・・」
    「はあっ、んふっ・・・・・だ、ダメッ、もうだめぇ・・・・」
    「・・・・可愛い。ね、満足してる・・・・?」
    「あっ、あ・・・・・」
    「・・・・満足、してないでしょ?ね、どうして欲しい?」
    「あっ・・・・紐、ほどいて・・・・」
    「他には?」
    「んんっ・・・・あっ、サラが動いて・・・・これじゃ、足りないよぉ・・・・・」
    「もっと、僕が欲しい?」
    「うんっ、欲しい・・・・・ね、いっぱい動いて・・・・」
    「・・・・いいよ」
    サラレギーはそう言って、中に入れたまま僕の体をうつ伏せにして、その上に覆いかぶ
    さってくる。僕がシーツをぎゅっと握り締めたのと同時に、サラレギーは深く僕の奥を
    突いてきた。




    「あああっ!!」
    「ここが好きなんだよね?」
    「うんっ、好き・・・・もっと、そこ、もっとっ・・・・!奥まできてっ・・・・」
    「・・・・・可愛い。そうだよ、もっと乱れて・・・・」
    「あっ、ああんっ・・・・・ああっ、ひああっ・・・・!」
    「・・・・ね、僕のこと、好きって言って。そしたらもっとあげるから・・・・・」
    「あ・・・・す、すきっ・・・・好きっ・・・!」
    「僕のこと、好き?ちゃんと言って」
    「あっ、好きっ・・・・!サラが、すきっ・・・・」
    「そうだよ・・・・もっと言って」
    「あぁんっ・・・・、もっと・・・・お願いっ、もっと・・・・・」
    「・・・・いいよ。今日はいくらでもあげる・・・・」
    「あ・・・・あ、ああんっ・・・!!」









    それから、何度イかされたか覚えていない。どんな言葉を吐かされたのか、あまり記憶に
    ない。
    ただ、どれだけ淫らに行為を望んだのか。それだけはしっかりと覚えてる。
    「ふえっ・・・・」
    誰もいない部屋で、僕は涙を流した。







    いっそのこと、死んでしまえたらいいのに。全てを忘れることが出来たらいいのに。
    だけど、それは出来ない。
    僕は僕のために生きてるんじゃなくて、魔王のために生きてる。
    それに、僕が死ぬことはない。たとえ村田健としての生を終えても、またすぐに生まれ
    変わる。記憶がなくなることも決してない。
    今までそれを恨んだことはなかった。だけど、今は心から憎らしく思う。








    忘れられたらいい。死んでしまえたらいい。
    そうすれば、きっと楽になるのに。
    それさえも出来ない僕の体が、死ぬほどに憎らしかった。














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