- ■ 呪縛 〜亀裂〜
■
「んんっ、ん・・・・・」
ドアに押し付けられ、何度も唇を重ねられる。僕は震える手で、必死にサラレギーの体を
押した。
「やだっ、んあ・・・・・」
「やだって言ってるわりには、体は反応してるみたいだけど?」
僕はぎゅっと目を瞑って、ぶんぶんと首を横に振った。
「こ・・・・こをっ、どこだと思ってんの・・・・・」
「眞王廟。神聖な場所・・・・だっけ」
「ここで、こんなことっ・・・・・」
「不謹慎だって?じゃあ、君はしなかったの?昨日」
「き・・・・のう?」
「夜のことだよ。あの庭番としなかったの?」
「っ!!」
かあっと顔が熱くなる。目頭も熱くなってきて、気がついたら涙が溢れてきた。
昨日のことを思い出した。思い出すと、止まらなくなってくる。
ぼろぼろと涙を流していると、サラレギーが僕の頬に手を伸ばし、涙をそっと掬い上げた。
「誰のせいでっ・・・・こうなったと思ってるの。もう、こんなのやだっ・・・・・」
あんな風に、愛しい人に辛い顔をさせるなんて。
優しいことを言ってくれてるのに、騙し続けなきゃいけないなんて。
僕は力が抜けてぺたんと座り込み、顔を両手で覆って泣いた。
すると、サラレギーもそっと膝をついてくる。そして僕の髪に静かに口付けた。僕は顔を
あげて、サラレギーを見る。
「・・・・だったら別れたら?」
「・・・・・・え?」
「これ以上、自分のことで辛い思いさせたくないんでしょ?だったら別れたらいいじゃ
ない。このまま付き合ってたって、あの庭番をずっと騙し続けなきゃいけないでしょ?
だったら早く自由にしてあげるのも愛情じゃない?」
「・・・・・・・」
「・・・・僕は君を離さない。離すつもりはない。どんなことをしたってこの手におさめて
みてみせる。そうなれば、どうしなきゃいけないのかくらい、頭のいい君なら分かるよ
ね?」
「っ・・・・・」
ずっとずっと、辛い顔をさせるより
早く自由にしてあげる
ヨザックに、早く僕を忘れさせて
新しい大事な人を見つけさせる
分かってる
それが一番いいことなんだって分かってる
だけど
「・・・・出来ないよぉっ・・・・」
こんなにも好きで好きで、たまらなくて
どうしても離すことは出来ない
ヨザックが誰かを、他の誰かを好きになるなんて
僕以外にあんなに優しい言葉をかけて、優しい笑顔を見せるなんて
そんなの嫌だ
我侭だって分かってる
最低だって分かってる
それでも、ヨザックを離すなんてこと出来ないんだ
「あっ、んふっ・・・・んんっ」
ドアに押し付けられたまま、何度も何度もキスをされた。
足の間にサラレギーの足が入って、ぐい、と膝で押し上げられる。
「んあぁっ、やぁっ、や、め・・・・・・」
「やめてもいいの?ホントに?」
意地悪くそう聞いてきて、ぐりぐりと押し付けられる。
痛みはある。だけど、それ以上にぞくぞくといろんな感情が押し寄せてきて、僕はぎゅ
うっとサラレギーの服を握り締めて、快感に耐えた。
「やだっ、やだよぉ・・・・・」
涙が浮かび上がってきて、サラレギーにぺろりと舐め取られる。そして今度はズボンの
中に手を入れられて、直にきゅっと握られた。
「あっ・・・・待って、やだっ・・・・・」
「待たない」
サラレギーは僕に深く口付けてきて、ぴちゃぴちゃと唾液が交じり合う音が部屋の中に
響く。あまりに深い口付けと、下への愛撫のせいで、体の力がどんどん抜けていってしまう。
頭の中がどんどんとろけていって、もっとって思ってしまう。
こんな体、嫌なのに。どんどん堕ちていってしまう。
「さ・・・らっ・・・・はっ、もうっ・・・・」
「イキたい?」
「んっ、もっと・・・・激しく、してっ・・・・」
「・・・・・・素直ないい子にはご褒美あげる」
「ああっ・・・・あ、あ・・・・・あ、ああんっ!!」
ダメ・・・・もう、何も考えられなくなってくる・・・・・
どんどん、快楽を欲してしまっている。
ダ レ カ タ ス ケ テ
☆ ★
え〜っと、まず猊下に許可もらって〜・・・それからグレタ嬢ちゃんの帽子でも貸してもらい
に行くかな。
猊下の部屋に走って向かっていると、巫女さんに注意された。
おっとっと。はいはい、走りませんよ。グレタ嬢ちゃんを待たせるのは気が引けるけど、
早足で猊下の部屋に向かうことにした。
・・・・・あ、そういえば。
俺は思い出して、ポケットの中に手を入れる。その中に入れてたのは、少し前に猊下が
ご所望した、俺の人形。
ヨザックの人形が欲しい。
そう言われた時、ホントに嬉しかった。
俺はアニシナちゃんにびくびくしながらも何とか教わって、俺の人形を作ることに成功した。
アニシナちゃんも最後には喜んでくれるといいですわねって笑顔で言ってくれたし。
俺は猊下の喜んだ顔を想像して、思わず笑みが漏れてしまう。
早く渡したい。喜んだ顔が見たい。
猊下の部屋に近づくと、わくわくする気持ちが強くなる。
俺はちょっと怪しくも笑顔で猊下の部屋のドアに手をかけた。
その時。
「あ・・・・・あっ!もう、やめっ・・・・・」
「・・・・・え?」
猊下の声。でも、なんかいつもの声と違う。ドアの近くで聞こえる。俺はドアノブに手を
かけたまま立ち止まった。
「待って、やだっ・・・・・」
「ここは嫌だなんて言ってないよ?」
「あ、ああんっ・・・・・」
「すごく気持ちいいっていってる」
「ふあっ、あん・・・・・」
・・・・・・なんだ、これ。
甘ったるい猊下の声。響いてくる水音。
頭の中ががんがんする。
「あ、ああっ、サラッ・・・・・」
「すごい・・・・・君の中、すごく熱くて気持ちいい・・・・・ね、もうイッていい?」
「う、うんっ、んっ・・・・ああっ、僕も・・・・」
「イキたい?イキたいって言って?」
「イ・・・・キたいっ、イキたいよぉっ・・・・ねえ、サラぁっ・・・・」
「なぁに?」
「もっと、いっぱいっ・・・・奥までいれてっ・・・」
「・・・・可愛い。ホント、淫らで可愛いよね・・・・・」
「あ、ああんっ・・・・・さら、さらぁっ・・・・」
「くっ・・・・中で、出すよっ・・・・」
体の力が、抜けていく。ずるずるとその場に座り込んでしまう。
ドア越しに聞こえてくる、猊下とサラレギー陛下の声。
見えなくても、聞こえてくる音だけで何をしているのかは明白で。容易に想像できて。
「出してっ・・・・あ、ああんっ・・・はやくぅっ・・・・」
頭の中が、真っ白になる。
体が動かない。
猊下の甘い声が、耳に残って離れない。
『ヨザック』
『ヨザック』
『・・・・ありがと・・・・』
『ねえ、ヨザック。あのね』
『だいすき』
そんな猊下の声が、頭から遠のいていく。
今聞こえてくる、甘い声だけが頭に残る。
そして、手の中に抱いていた人形が、ころりと床へと転がった。
