• ■ 呪縛 〜絶望〜 ■




    ベッドで横になっていても、眠れなかった。
    こんな所でも、ことを進めてしまうなんて。
    眞王も、見ていたかなと思った。見ていたら、どんな言葉を僕に投げつけるのだろう。





    でも




    いっそのこと、罵ってくれたらいいのに









    僕は腕で目を覆って、光を遮断する。
    そういえば、今日は話をしなかったっけ。明日にでも行かないといけないかな。
    毛布をもそりと覆い被せたその時、ドアががちゃりと開く音がした。
    「・・・・・だぁれ?」
    体を起こして呟いてみると、微かに窓から漏れてくる月の光から、微かに光るオレンジ
    色を見つけた。









    「・・・・・ヨザック?」
    月の光よりも綺麗な、オレンジの色。あんなに鮮やかなオレンジを、僕は他に知らない。
    「・・・・・どうかした?」
    「・・・・・・夜にすみません。起きてました?」
    「うん、起きてたけど・・・・なぁに?」
    「・・・・思い出して・・・・・・これを」
    「これ・・・・・・」
    よざの手の中に会ったのは、僕はお願いしたヨザックの人形。少し不恰好だけど、ヨザッ
    クの特徴が良く出ていて、なんだか可愛かった。
    温かみがある、その人形に手を伸ばす。








    「・・・・・・嬉しい。ありがと・・・・・・」
    「・・・・・・・・・」
    「?・・・・・よざ?」
    反応がない。どうしたんだろうと僕は顔を覗き込もうとする。
    「ね、どうし・・・・・・っ!?」
    ぐいと腕を強く引かれる。そしてそのまま乱暴にどさりとベッドの上に倒された。
    「っ、何を・・・・・・・・・んっ!!!」










    深く口付けられた。
    今までヨザックにされたどんなキスよりも乱暴だ。
    こんなキスは初めてだった。僕はぞくりと鳥肌が立つ。まるで、誰かのようで。
    「やあっ!何・・・・」
    「暴れないでください。傷がついてしまう」
    「待って、やだぁっ・・・・」
    ヨザックの手が夜着にかかる。僕の体がびくんと跳ねた。だって、この下にはっ・・・・










    「やだっ、ダメッ・・・!!」
    「・・・」
    ヨザックは何も言わない。僕の夜着から手を離さない。
    僕を見下ろす冷たい目。僕は始めて、ヨザックを怖いと思った。









    「いやっ・・・・・やだぁっ!!」
    僕がいくら叫んでも、ヨザックの手は止まらない。
    そして、音を立てて夜着が破れる。夜の冷たい空気が肌を這う。そして、肌に散らばった
    赤い痕が、曝け出された。









    「あ・・・・・・」
    「・・・・・・・」
    僕は腕をクロスさせて、肌を隠す。だけど、ヨザックは冷たい目を変えず、僕の両手首を
    持って押さえつけた。









    「よざっ・・・・・いやっ、やだぁ!!」
    こんなの嫌だ。こんなの、ヨザックじゃない。
    怖い、怖い。
    必死で僕が叫んでも、ヨザックは僕を放してくれない。そして、僕の耳に、ぺろりと舌を
    這わせた。
    「ひっ・・・・・」
    びくん、と肩が跳ねる。耳の中にまで舌を入れられて、体がびくびくと震える。
    すると、耳元でヨザックが笑う声が聞こえた。









    「・・・気持ちがいいですか?」
    「ふぇっ・・・・・」
    「・・・・・・サラレギー陛下と比べて、どちらがよろしいですか?猊下」
    「っ・・・・!?」









    今、何て言った?


    サラレギー陛下と、比べて


    どうして









    「・・・・・・貴方が、何を不安がっているのか、何を俺に謝っているのか。ずっと分かりませ
    んでした。俺はずっと考えて、貴方を心配して・・・・だけど、思いもしませんでしたよ、
    猊下」
    「ヨ・・・・ザ・・・・・」
    「バカみたいだ・・・・・・・貴方はあんなに喜んでいた。俺の知らない場所で、知らない顔を
    他の男に見せていた。必死であなたのことを考えていた俺がバカみたいだ」
    ヨザックは手の中にある人形を握り締め、思い切り壁に叩きつけた。僕は体を強張らせ、
    ヨザックを見上げた。









    「・・・・・・・もう、信じられない」









    貴方のことが、信じられない









    ヨザックが僕から離れる。
    だけど、体が固まって、動けない。
    思考も上手く働かない。




    ヨザックが離れて
    ドアが開いて、ゆっくりと閉まる。
    僕の涙は頬を伝って、ベッドへと落ちる。
    もう、動かない。











    貴方の一言が、何度も頭の中を廻っていく。












    嫌われたくなかった。
    貴方と一緒にいたかった。
    だけど だけど











    「ヨザック・・・・」
    もう、いない。
    ヨザックがいない。









    手を伸ばしても、もう届かない。
    もう、見えない。









    僕は、ゆっくりと起き上がり、ベッド脇の引き出しを開ける。
    中には、一つだけ。
    1本の、光る短剣。












    僕の命は僕のものじゃない。
    渋谷のもの。魔王のモノ。だから今まで耐えてきた。
    だけど









    「もう、ダメだよ・・・・・」









    もう、限界だった。
    僕だって人間だ。絶望だって感じる。









    一瞬のうちに広がる赤の世界
    一切の音も、空気も









    僕の前から消えた











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