■ 呪縛 〜繋がる想い〜 ■




「・・・・ん・・・・・」
柔らかなベッドの感触と、ユラユラと揺れる感覚。その二つを同時に感じ、僕は目を開けた。
「・・・・ここ・・・・」
見慣れぬ天井。血盟城の天井って、こんなに近かったっけ・・・?
ぼんやりそんなことを考えていたけれど、次第に頭が覚醒してくる。そして我に帰ると、
僕はガバッと勢いよく体を起こした。
「いたっ・・・・・」
ズキッと頭が痛む。いきなり体を起こしたせいだろう。しかし、そんなことを構っていられない。
僕はベッドから降りようとした。だけど、足に手錠がかけられていて、ベッドから降りることが
出来なかった。








「な、なにこれっ・・・・」
「逃げられるわけにはいかないからね」
「っ!!」
振り向くと、サラレギーがいつもの笑顔でドアの所に立っていた。
彼を見ると、体の震えが止まらなくて、僕は少しあとずさった。だけど、そのまま押し倒されて、
サラレギーは顔の横に手をつく。そして、ゆっくりと顔が近づいて、顔をそむける暇もなく、
キスをされた。
「んっ・・・・・はあっ・・・・やっ!」
「あんまり腕、動かさない方がいいよ。手首に傷がついちゃうから」
「だったら、外してよっ・・・!」
「それはダメ。それに、こういうのも結構イイし」
「やっ・・・!!」
ぐっと腕に力を込めると、手錠が手首に食い込んでくる。それにずきりと痛みを感じたが、サラ
レギーが首筋に唇を寄せてきて、息がふわりとかかると、それよりも体がぞくっと震える方が
強く感じた。









「いやっ・・・・・やあっ・・・助けてっ・・・・ヨザック!!」
「・・・・・誰にも渡さない。君は僕のものだ」
「やああ―――っ!!」





















■ □



「ヨザック!」
「っ・・・!」
陛下の声が聞こえて、俺はハッと顔を上げた。目の前には、大きな広い海が広がっている。
こんな時に・・・・転寝でもしてたんだろうか。よく覚えていない。
「大丈夫か?」
「・・・・ええ。すみません、陛下」
「謝ることないよ。でも、なんか飛び降りそうで怖かった」
「あはは・・・・んなことしませんよ。猊下を助けるまでは何があっても死んだりしませんって」
「・・・・うん。絶対だぞ」
「・・・・勿論」
俺は一つ息を吐く。目を閉じると、あの人の顔が思い浮かぶ。
笑顔、泣き顔、困った顔、照れた顔。
いろんな顔が思い浮かぶ。
今、どんな顔をしてるんだろうか。
泣いて、いるんだろうか。






「小シマロンまで、あとどれくらいかなぁ」
「そうですね・・・・あと2日ってトコでしょうね」
「村田たちは今どこら辺だと思う?」
「ん〜・・・・1日しか出航の差がありませんから、そこまで遠くには行ってないと思うんですが。
おそらく、この先の・・・・・・」













『やあああっ!!』












「っ!」
「?ヨザック?」







何だ・・・・今の声。
切り裂くような、声。泣き叫ぶ声。
聞き覚えがあった。






「ヨザック!?」
陛下の声が聞こえたが、俺は構わず船の中に入った。走っている途中、時々俺の様子に
驚いたのか、声をかけてくる奴らがいたけれど、そんなものに構っている余裕はなかった。






さっきのは、猊下の声だ。
どうして頭の中に響いたのか、聞こえてきたのかは知らないけれど、間違いない。
俺にはわかる。








猊下が泣いてる。
俺の名前を呼んでる。










タスケナキャ











「失礼!!」
「うわっ!ど、どうしたんだ、ヨザック」
俺が操縦室に飛び込むと、艦長が驚いた顔で俺を見る。
「戻ってくれ、頼む!」
「な、何を言って・・・・方向は間違ってないぞ」
「違う。こっちじゃないんだ。猊下がいるのはこっちじゃない!」
「ま、待て、落ち着けヨザック。ちゃんと話してくれ」
「悠長に話してる余裕はないんだ!とにかく戻ってくれ!そして、俺の言うとおりの
方向に行ってくれ!!」
「ヨ、ヨザ・・・・・」
「・・・・頼む・・・・猊下が泣いてるんだ。俺が助けなきゃいけないんだっ・・・!!」







縋るような声で、俺の名前を呼んでた
身が裂かれるような想いをしてる
早く助けなきゃ






「・・・・・分かった。じゃあ、お前が先導しろ!」
「了解!」













■ □



「やあっ、ああっ・・・・!!」
ぎしぎしとベッドが軋む音がする。結合部からは、卑猥な音が響いていた。
「・・・・いつもなら、この辺りで陥落するんだけど・・・・強情だね」
「んんっ・・・・い、言った・・・・はずだよっ・・・・僕はもう、君の人形にはっ・・・・ああっ!!」
「だったら、無理やりにでも手に入れる。それが僕のやり方だ」
動くスピードが速まる。頭がどうにかなってしまいそうだ。
でも、必死で理性を保って、僕は薄目を開けた。その時、気のせいか、なぜか辛そうな
顔をしてるサラレギーの姿が目に入った。
どうして・・・・そんな顔をしているの?
辛いのは僕だよ?どうしてそんな顔をするの?








・・・・・・ああ、そっか・・・・・









「・・・・わ、いそう・・・・」
「・・・・・・・え?」
サラレギーの動きが止まる。僕は彼を見上げた。













「・・・・・可哀想な・・・・・人・・・・・・」
「・・・・・っ!!」

















サラレギーの表情が変わる。驚きの表情だ。でも、ぎゅっと唇を噛み締めると、また奥
へと突いてきた。
「やああっ!!」
「まだ・・・・余裕が、あるみたいだね・・・・」
乱暴に動かされて、僕の体もベッドも揺れる。サラレギーに揺さぶられながら、僕は彼の
ことを想った。






(ヨザック・・・・・・)














■ □



「あった、あれだ!」
小さく見えた船の影に、俺は声を上げた。
「どうして・・・・こっちは小シマロンとは正反対の方向なのに」
「俺たちのことを考えて、航路を変えたんでしょう」
「なるほど・・・・・でも、何でヨザック、分かったの?」
「え?」
「何でサラたちがここにいるって分かったんだ?」
ご尤もな質問だな。俺だってよく分からない。ただ・・・・・






「・・・・乙女の勘ってことにしといてください」
「はあ?」








猊下の声が聞こえたから。
ただ、それだけだった。