■ 呪縛 〜手段〜 ■
俺たちは、近く似合った岩場に船を隠した。これ以上近づいて、見つかるのを防ぐためだ。
「小船かなんかで近づくか?」
「ダメです。見つかったりしたら反撃が出来ません」
「でも、このままじゃ見失っちまう・・・・」
「大丈夫ですよ、陛下」
「え?」
「・・・・どこに行ったって、絶対に見つけ出せます」
確信があった。世界のどこに行こうとも、たとえ異世界に行こうとも。
俺は猊下を見つけられる。
「俺が泳いで近づきます。それなら見つかる可能性は低い」
「泳いでって・・・・ここからかなり離れてるんだぞ!そこまで泳ぐのか!?」
「ある程度までは小船で近づきます。で、見つかりそうな距離になったら泳ぐってことで」
「だからって・・・・」
「大丈夫ですって。俺、こういうことは慣れてるんです」
Vサインをして笑顔を見せると、俺は小船の用意をしてきます、と陛下たちから離れた。
背を見せて走り出したその瞬間、笑顔なんて消えていることが分かった。
早く、早く、早く。
猊下の所に行かなくちゃ。
今度こそ
俺が助けてみせる
☆ ★
「はあっ・・・・やっ・・・・」
「・・・・ホント、強情。イかないと、キツイでしょ?」
「っ・・・・絶対、イかないっ・・・・!!」
ぎゅうっと目を瞑って、サラレギーの肩を押す。でも、今の僕の力でどうこう出来るわけが
なくて。サラレギーは顔色も変えずに腰を進めていく。
「んふっ、ふぅっ・・・・・」
「・・・・なんで・・・・・そんなに意地を張るのさ。素直になったら楽になるのに・・・・・」
そんなこと、分かってる。
体は楽になるかもしれない。今のこの苦しさから逃れられるかもしれない。
だけど、だけど。
「そんなこと・・・・たいした問題じゃない・・・・」
「・・・・・なんだって?」
「僕にとって・・・・・ヨザックを裏切ることの方が・・・よっぽど辛い・・・・・・」
「・・・・っ・・・・・」
「だからっ・・・・・・だから・・・・・・」
はあっと一つ、大きく息を吐く。
息を整えて、じっとサラレギーを見る。
ほら、思いっきり不敵に、笑ってやろうじゃないか。
「君の思うとおりには・・・・いかないからっ・・・・」
その瞬間、強く突かれた。
もう、声なんてあげてやらない。感じてなんかやらない。
僕の、最後の意地だ。
「・・・・いいよ・・・・・意地をはってなよ」
「はあっ・・・・・」
「もうどうしようもないってくらい、感じさせてあげる」
「くっ・・・・あ、いやあっ!!」
乱暴に扱われて、声が上がる。
今まで、感じたことのない、サラレギーに対する恐怖。
今までだってずっと怖かったけど
でも、それとは違う恐怖。
ぞくりと背筋が寒くなった。
「い・・・・やっ・・・・・」
体が震える。涙がこぼれる。
怖い・・・・怖い。
助けて
「やだっ・・・・・・ヨザック!!ヨザぁぁッ!」
「その名前を呼ぶな!僕の前でっ・・・・!!」
「いやぁぁっ!!ヨザッ・・・!!」
再びヨザックの名前を呼ぼうとした。だけどその瞬間、外から大きな音が聞こえた。
☆ ★
「魔族だ!!」
「相手は一人だ、やれ!!」
船に忍び込めそうと思ったその時、存在が見つかった。
ちえっ、あと少しで簡単に忍び込めるところだったのに。
・・・・仕方ないか。
攻撃の死角になる所を通って、俺は船をよじ登っていった。そして上りきると、くりっと
一回転をして相手の頭上を飛んだ。すとん、と足をつけると、わあっといっぺんに襲われた。
だけど、甘くみなさんな。これくらいの人数、何とかできないわけがない。
俺はまず両側から襲ってきた奴らの顔面を両の拳で殴りつけ、そいつらから剣を取り上げた。
短剣だけど、十分だ。俺は適当に相手を蹴散らすと、その中から一人を突き飛ばし、壁に叩き
つけ、座り込んでしまった相手の方を思い切り蹴りつける。
声を上げられたが、そんなこと知ったことじゃない。俺は短剣をそいつの喉にぴたりとつけた。
「猊下はどこだ」
「ひっ・・・・・」
「別に答えなくてもいいけどさ。こっちも穏便にしたいもんでね。人殺しをしたら陛下に怒ら
れちまうし」
がりがりと頭をかいた。
だけど、陛下がなんと言おうと、俺は
ダンッともう一本の短剣を、そいつの横に叩き付けてやった。ぱらリと髪の毛が切り落と
され、壁に短剣が突き刺さる。
「次は、狙ってやろうか。心臓を」
早くしろ
時間がないんだ
こうしてる間にも猊下は
俺を待って泣いてるんだ
「死にたくなかったら猊下の居場所を教えろ。言っておくが、本気だ。猊下を救うため
なら、あんたの命がどうなろうと知ったことじゃないからな」
「あっ・・・・あ・・・・・」
「ルッテンベルクの生き残りを、あんまり舐めるもんじゃねえよ」
目的のためなら、どんなことだってする
どんなに血を浴びようと
俺がするべきことは一つだけだ
☆ ★
「・・・・一体、何の騒ぎだ」
サラレギーがドアの方に顔を向ける。それでも、僕を抱く手を離しはしなかった。
でも、今はそんなことどうでもいい。
この騒ぎが何か、なんて。
不思議と、僕には誰が起こしたのか分かった。
「ヨザック・・・・・・・」
「・・・・・・ヨザック?」
ピクリと反応して、サラレギーが僕のほうを向く。そして小さく舌を打ったかと思うと、
僕の手首を掴み、両手首を紐で縛りつけた。
「やっ・・・・なにをっ・・・!?」
僕の抗議なんか気にも留めず、今度は足の手錠を外した。折角足が自由になったのに、
手の自由がきかない。僕は必死に手に縛り付けられた紐を解こうと、腕を動かした。
サラレギーが僕の体を起こし、キスをする。
乱暴に何度も何度も重ねられて、吸われて、息が出来なくて。
唇を離された時にはもう、体中の力が抜けてしまっていて。
僕はサラレギーに寄りかかるように倒れた。
その時、ドアが大きな音を立てて開いた。
「あ・・・・・」
「・・・・・来たね。思ったより、早かったじゃない」
「猊下!!」
涙が、溢れた。
名前を呼んで、縋り付きたかった。
貴方という愛しい存在。
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