「・・・・・・・あのさ。俺、またおだんごに会うことが出来たら、どうしても言いたいことがあったんだ」
「え・・・?」
うさぎは目を見開く。星野の目は真剣で、うさぎは目を逸らせなかった。
唄を聴かせて 3
「せい・・・・・・」
「おだんご・・・・・・俺・・・・・・・・」
「せぇーいーやぁ!!」
「うわぁっ!!」
急に大きな声とともに、星野の背中にどーんっと衝撃が走り、どたっと地面に倒れこんだ。
「いって・・・・・・って、夜天!」
「お前なぁ、探したぞ!引越しサボって何やってたんだ!」
「や、夜天君・・・・」
「ん?」
夜天はすい、と顔を上げる。
「あれ、月野・・・・・」
「あ・・・・あはは、久しぶり」
「あ・・・・うん、久しぶり・・・・・・って、もしかして・・・・・」
夜天はハッと気づいて、自分の下にいる星野に目を向けた。星野はそれに気づくと、少しバツが悪そうに
ふいっと顔を背ける。夜天は目を細めてじろり、と星野を睨む。
「ふぅ〜ん・・・・そういうこと」
「え?」
納得したような顔を見せている夜天を見て、うさぎはきょとんとした顔をする。そんなうさぎにちらりと目を
向けると、呆れたようにため息をついた。
「何だ。この様子じゃまだ何にも言ってないんだ」
「え?な・・・・なにが?」
ますます訳が分からないという顔を見せるうさぎを見て、夜天はますます大きなため息をつく。
「星野の意気地なしー」
「お前な・・・・・」
ぴきぴき、と星野は青筋を浮かべる。すると、後ろからくすくすと笑う声が聞こえた。
「星野が言おうとしてたのを邪魔したのは、貴方ですよ。夜天」
「ん?」
「大気さん!プリンセス!」
「こんばんは、月野さん」
「お久しぶりです」
にこりと穏やかな笑顔を見せる二人に、うさぎは少しホッとした顔を見せながら駆け寄る。
それを見ると、夜天はちらりと星野に目を向けた。
「・・・・・・・ホントに?」
「・・・・・・・ホントに」
「・・・・・・ありゃ」
「・・・・・・・・・・おい、夜天」
「あ、怒ってる?」
「・・・・・・いや、もういいからとりあえず降りてくれ・・・・重い」
「あ」
未だに星野に乗ったままになっているのに気づいて、夜天はいそいそと降りた。
「ん〜・・・・まあとりあえず、これで引っ越しサボったのはチャラってことで」
「お前、ホントにちゃっかりしてるよな・・・・」
星野は呆れたようにため息をつく。しかし、夜天は気にした様子もなく星野に言う。
「それよりさ。まだ言ってないんでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
「ちゃんと言った方がいいよ。あの子、その手の事に関しては国宝級に鈍いから」
「・・・・・・知ってるよ」
軽くため息をつくと、星野は大気と火球に笑顔を向けているうさぎに、目をやった。
2
「それじゃあ、3人ともまた音楽活動、始めるんだ」
「ああ。金がないと食べていけないしな。学校も行く予定だし・・・・」
「でも、僕らがバイトなんてしたら、多分女の子たちが大騒ぎするだろうからさ」
「そうだねぇ・・・・スリーライツがハンバーガーショップとかコンビニなんかでバイトしたら・・・・・」
うさぎは思わず想像してしまう。
そんな所でバイトをして、『ポテトもご一緒にいかがですか?』なんて聞かれたり、『○○円に
なります』なんて笑顔を見せたりなんかしたら・・・・・長蛇の列が出来てしまい、失神する客も
出ないとも限らない。
やはり、この3人に似合うのはアイドルなのだな、とうさぎは改めて感じた。
「ですが、その間プリンセスを一人にするのは心配で・・・・」
「だよねぇ・・・・アイドル活動をするとなると、夜遅くなる時もあるし」
「あら。私は一人でも大丈夫ですよ。そうですわ、3人が疲れて帰ってきた時のために、美味しい
ご飯でも作って待ってます」
「ええっ!?」
「ダ、ダメです、そんなの!料理って言えば、包丁を持ったりするでしょう!」
「危険です!!」
真剣にプリンセスに向かって叫ぶ3人を見て、うさぎは目をぱちくりさせた。そしてぷっと噴出すと、
可笑しそうにお腹を抱えて笑った。
「あ、あはははっ!3人ともママやパパみたいっ!」
「んなっ・・・おだんご!」
「あははっ」
未だに笑が耐えないうさぎに向かって、星野が叫ぶ。
そんな風にじゃれている二人を見ると、大気と夜天は馬鹿らしそうな顔を見せて、はあとため息をついた。
「プリンセス、帰りましょう」
「そうです。これ以上星野といたら、こっちまであのテンションが移ってしまう」
「んなっ・・・・お前ら人を病原菌みたいに」
「はいはい。文句は後で聞いてあげるから。星野はその子、ちゃんと家まで送ってあげな」
「へっ?」
「そうですよ。こんな時間に女性の一人歩きは危険です。まさか星野・・・・・一人で帰そう、なんて
思ってませんでしたよね?」
「そ、そんなこと思うわけねーだろうがっ」
「だったらちゃんと送っていきなさい。ああ、こちらはご心配なく。プリンセスはちゃんと私たちが
お守りしますから」
「じゃあねー、星野。ま、頑張って」
「お、おいこら、お前ら!!」
さっさと話を進めてしまう大気と夜天に、星野は抗議の声を上げる。
「星野。この二人の言うとおりです。私は大丈夫ですから、プリンセス・セレニティを送ってさしあげて」
「は・・・・・はぁ」
「それでは星野。気をつけて」
「あ・・・・は、はい」
ひらひらと手を振って、火球は大気と夜天とともにいってしまった。見えなくなるまで見送ると、
星野は深いため息をつく。
「・・・・・・・・星野ってさぁ」
「ん?」
「やっぱり、プリンセス火球には弱いよねっ」
「・・・・・ほっとけ」
少し照れて拗ねたような顔をしている星野を見て、うさぎは思わず可愛い、と思ってしまったのだった。
3
二人は色々な会話を交わしながら、夜の道を歩いた。その時間はとても楽しく、そして、すぐに過ぎて
しまった。
いつの間にかうさぎの家の前まで着いてしまったのだ。
「今日は楽しかった。またな、おだんご」
「うん。あ・・・・ねえ、学校にはいつから来るの?」
「んー・・・・転入届とか出してからだし、芸能界にも復帰したりと色々忙しいだろうからなぁ・・・ま、2,3週間
ってトコかな」
「そっかぁ・・・・なんか協力できることあったら言ってね。たとえば・・・・・あっ、3人がいない間のプリンセスの
ボディーガードとか」
「ははっ、ばーか。お前だってプリンセスだろ。どっちかって言うと守られる立場じゃねーか」
星野は可笑しそうに笑う。夜で暗いはずなのに、星野の笑顔は何故か明るく綺麗に見えて、うさぎはドキッと
した。
「?どした?」
「な、なんでもないっ」
ハッと我に帰ると、顔を赤くして慌てててを横に振った。星野は首を傾げたが、じっとうさぎを見ると少し考え
込むように自分の顎に手を当てた。
「え・・・なに?」
「・・・・・なあ、おだんご」
「ん?」
「戻ってきた記念に、なんかちょーだい」
「え・・・・でも、今何にも持ってな・・・・・」
顔を上げると、星野は素早くそっと、うさぎの額にキスをした。
「っ!!?」
「・・・・おやすみっ」
くるりと背を向けて、星野は夜道を走っていった。うさぎは額を抑えて顔を真っ赤にしたまま、ボケーっと
その姿を見送った。
「うそぉ・・・・・」
煙が出るくらい真っ赤になると、うさぎはペタン、とその場にしゃがみこんでしまった。そしてドクドクする
心臓を感じ、頬を両手で覆った。
「なに・・・・これ・・・・・・・・」
自分の中から溢れそうになるこの気持ち。うさぎは必死でそれを拒んだ。
それを許してしまったら、全てが変わる。そして、終わってしまう。
それが、分かっていたから。
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