数日後、テレビ、新聞、雑誌は大騒ぎだった。
大きく「スリーライツ、復活!」と書かれた文字を見て、うさぎはやっぱり、と思った。
そして、テレビに映っている星野の姿を見ると、うさぎはかあ、と頬を赤く染めた。






唄を聴かせて 4



「まさかあの3人が帰ってるなんてねぇ」
「でも、やーっとスリーライツの復活ね!もう今人気のアイドルなんか目じゃないわっ!」
きゃあきゃあと美奈子ははしゃいだ。
「でも、うさぎちゃんズッルーイ。スリーライツが戻ってきてたの知ってたんなら、教えてくれたっていいのに」
「あはは・・・・ごめん」
「ホラ、見てみて。今日の朝刊のトップに大きく載ってるよ」
まことが新聞を広げて見せる。どん、と大きく載っている3人は、まるで遠い世界の人のようだ。
「そういえば、プリンセス火球もこっちに来てるんだろ?3人が仕事や学校に行くときはどうするんだ?」
「それがね、学校に行くことにしたらしいの」
「学校に!?」
「昨日ね、大気さんから連絡があって。そのことで話がしたいから、今日家に来てくれないかって」
「ええぇぇっ!?大気さんからの直々のお誘い!?羨ましいーっ!!」
「私たちも行っていいでしょ、うさぎちゃん!ね、ね!?」
「え・・・・あ、うん・・・・私が構わないけど・・・』
4人の迫力に負けて、うさぎは乾いた笑いを見せる。そして結局押し切られ、5人仲良くスリーライツの新居に
向かうことになった。











「いらっしゃい・・・・・・・・・・・あ」
「おっじゃましまーすっ!!」
大気が出迎えて見た先には、5人が仲良く勢揃いしていて、奥の部屋にいた夜天や星野も驚いた顔を見せた。
「あ・・・・・いらっしゃい、皆さん。どうぞ、こちらへ」
驚きはしたものの、何とか平静を保って5人を中へと招き入れた。その時、ふと考え込む仕草を見せ、ちらりと
夜天に目配せした。夜天はそれをみて、やれやれというようにため息をついた。



「悪いな、まだ片付いてなくてさ・・・・」
リビングは広いのだが、あちこちに荷物が散らばっていて、少し狭く感じる。辛うじてソファーには何も乗ってい
なかったので、星野はそこに5人を座らせた。
「足の踏み場、なくてごめんな。やっぱり外にした方がよかったかな・・・」
「ダメダメ。僕たちが外に出たら大騒ぎになっちゃうから」
「そうよねー、今がピークなんだし」
夜天の言葉に、美奈子はうんうん、と頷いた。
「それで・・・・大気さん、話って・・・・・・・」
「ああ、すみません。そうですね」
台所でお茶の準備をしている大気は、ちょっと待ってください、という。しかし、何かに気づいたような声を上げる
と、台所から出てきた。



「すみません。お茶の葉を切らしてしまったようで・・・・夜天、買いに行きましょう」
「はいはーいっと」
「すみませんが・・・・・皆さんも来ていただけますか?」
「え、私たちもですか?」
「そ。僕たちだけで買いに行くより、カップルに見せかけた方がバレにくいでしょ。愛野、一緒に行こうよ」
「えっ、私!?よ、喜んで!!」
サングラスをかけながら微笑む夜天に目をハートにさせて、美奈子は立ち上がった。
「水野さん。付き合っていただけますか?」
「わ、私ですか?はあ・・・・」
「貴方たちお二人も」
「えっ、私たちも?」
「ついでにお茶菓子も買おうと思いまして。いいお店、紹介してほしいんですよ」
「ああ、そういうことなら」
「私、とっておきのお店、知ってますよーv」
「あ、みんなちょっと待ってよ!私も・・・・」
「おい、そんなぞろぞろ行くことないだろ」
全員で行きそうな雰囲気に、流石にうさぎと星野は驚いて止める。しかし、それを聞くことなく全員で
出て行ってしまった。



「あ・・・・・・・」
「・・・・・・・なんだ?あいつら」
ガシガシと頭をかくと、座っていた火球がゆっくりと立ち上がった。
「プリンセス?」
「すみません。私、少し疲れてしまいまして・・・・しばらく横になっていますわ」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。おそらく軽い疲労でしょうから。プリンセス・セレニティ。せっかくいらしていただいたのに
申し訳ありませんが、少し休ませてもらいますわ」
「あ、いえ。お気にせずに・・・・」
火球までリビングを出て行き、星野はどうなってんだと頭を悩ませた。しかし、今このリビングにいるのが
誰なのか、改めてよく考えると、ハッとして顔を上げた。




「っ・・・・あいつら・・・・」
「え?」








――――その頃。
「・・・・・・・・あからさまでしたかねぇ」
「そーかもね」
「え、何がです?」
「いえ、何でも」
ぞろぞろと買い物に向かう中、夜天と大気は軽くため息をついた。














全員が出て行って二人きりになり、しーんとした沈黙が訪れる。特に数日前、あんな別れ方をしてしまって
いたので、余計に気まずかった。
「えっと・・・・・麦茶くらいならあったかもな。それでもいいか?」
「えっ?い、いやいや、お構いなく」
「何遠慮してんだ。遠慮するなんて、おだんごらしくないぜ」
星野がそう言うと、うさぎは目をぱちくりさせた。
「・・・・・なんか、聞いたことあるセリフだね」
「・・・・そういえば、そうだな」
二人は顔を見合わせると、ぷっと吹き出して笑った。
「あの時は酷かったよねぇ。星野、顔中ケーキまみれになっちゃって。その時の星野の顔ったらおっかしーの」
「ありゃぁあのチビがやったことだろーが。ま、確かにあの時は災難だったな。おかげで俺、お前に裸見られたし」
「なっ、星野が勝手に見せたんでしょぉ!」
「ひ、人を露出間みたいに言うな!」
むむむっと二人でにらみ合ったが、次第に笑いが漏れて、可笑しそうに二人で笑った。



「楽しかった・・・・な」
「・・・・・・・うん」
笑い声がやむと、星野はスッとうさぎに顔を向けた。星野のまっすぐな視線に見つめられ、うさぎはドキッとする。
慌てて顔をそむけようとしたが、星野はうさぎの肩を持ってグイッと自分の方に向けた。
「せい・・・・や・・・・」
「・・・・・・・おだんご・・・・・・・俺・・・・・・・・」
近くに、星野の顔がある。鋭くて芯のある瞳に射抜かれた感じで、うさぎは身動きが取れなかった。
「・・・・・・・・俺・・・・・お前に、言いたいことが・・・・・・」
「あの・・・・・・私っ・・・・」
「聞けよ・・・・・・聞いてくれるだけでいいんだ」



瞳だけでなく、星野の声まで、こんなに鋭い。
怖い・・・・・怖くない。
どっちなのか、分からない。






「せいや・・・・・・・」
「・・・・・・おだんご・・・・・・俺っ・・・・・お前が・・・・・・・」











「ただいまー」
玄関の方から夜天の声がした。それからぞろぞろと人が入ってくる気配がする。そのおかげでうさぎはハッと我に
帰り、慌てて立ち上がった。そして、リビングのドアが開いたと同時にそのドアから出て行った。
「あっ、うさぎちゃん!?」
「どうしたの!?」
様子のおかしいうさぎの後を、4人は追った。そして残された夜天と大気は、ちらりと星野を見た。
「もしかして・・・・・・また邪魔してしまいましたかね?」
「って言うか、星野本題に入るの遅すぎ。折角気を遣ってやったのにさぁ」
「夜天。そういうことを言うものではありませんよ」
大気が夜天をしかると、星野はふらつきながら二人の間を通り抜け、リビングを出て自分の部屋に入っていった。
それと同時にその向かいの部屋の火球もひょこっと顔を出す。




「プリンセス」
「どうやら・・・失敗だったようですわね」
「少し、悪いことをしてしまいましたかね・・・・」
「やれやれ・・・・」