「せいや・・・・・・・」
「・・・・・・おだんご・・・・・・俺っ・・・・・お前が・・・・・・・」
怖かった。まるで、違う男の人みたいだった。
唄を聴かせて 5
星野が言っていたとおり、星夜たちが地球に戻ってきて2週間後、十番高校に転入してきた。
「それにしても、やっぱりスリーライツってすごいわねぇ」
「ホントホント。いきなりの解散でいきなりの復活だって言うのに、これだけの人気ですもんね」
「今出てきている人気アイドル押しのけて、トップアイドルだもんね。ねえ、聞いた?今度、スリーライツ
ライブやるんだって。でも、そのチケット販売5分で売り切れちゃったらしいわよ」
「うっそぉ、ホントに?」
「あーあ、私行きたかったなぁ・・・・・」
美奈子は残念そうにため息をつく。しかし、そんな3人の声を、うさぎは全く聞いていなかった。いや、聞こ
えていなかった。
「ねぇ・・・・うさぎちゃん?なんかあったの?」
「んー・・・・別に・・・・」
「そ、そぉ?」
ずっと上の空のうさぎを心配するが、美奈子達はどうしてこうなっているのかが分からなかった。
しかし、一応心当たりがあるといえばあるのだ。3人は女子に囲まれているスリーライツの方に目をやった。
うさぎは星野とまともに話していなかった。いや、それ以前に近づくことすら容易にはできない。いつだって
女の子たちの人だかりがあるのだ。
しかし、うさぎは逆にそれがありがたかった。星野に会うのが、話をするのが怖かったからだ。
うさぎははあ、とため息をつきながら、人気の少ない廊下を歩いていた。
すると、きゃあきゃあと女の子の騒ぐ声が聞こえてくる。それと同時に、大量の足音も聞こえるのだ。一体何事
かとうさぎが顔を上げた瞬間、曲がり角から星野が現れた。
「っ・・・・星野!?」
「おだんご・・・・」
星野は驚いた顔を一瞬見せたが、後ろから聞こえてくる女の子の叫び声に嫌そうな顔を見せた。そしてちっと
舌を打つと、うさぎの腕をグイッと引いた。
「きゃっ!」
「こっちだ、来い!」
そう言って、そのままうさぎを教室の中に連れ込む。運よく鍵が開いていた資料室だ。
ここは殆ど誰にも遣われることはない。大量のホント、それを積んだ本棚。そして、使われる機会が少ないが
為に出来てしまう、大量のほこり。
しかし、隠れるにはピッタリの場所だった。
星野とここに入り込み、ぴったりと体をくっつけ合う。うさぎはかああっと赤くなると、もがいて腕の中から逃げよう
とした。しかし、星野はうさぎをぎゅっと抱きしめてそれを制す。
「しっ、動くな」
「っ」
きつく言われて、思わずうさぎは体を縮こめる。そして廊下からばたばという走る音が次第に消えていき、完全に
消えると、星野はホッとした顔を見せた。
「悪かったな・・・・ファンに追われてたんだ」
「な・・・なんで私まで隠れなきゃなんないのよ」
「あのまんま廊下にいたら、お前間違いなくひかれてたぞ」
「う・・・・」
うさぎは言葉に詰まってプイ、と顔を背けた。
「・・・・・それより、星野」
「ん?」
「そろそろ・・・・・・・離して」
「え?」
しっかりとうさぎを抱きしめたままの状態でいることに、星野はようやく気づいた。
「あ、ああ・・・・悪い」
「・・・・・・」
少し乱れてしまった髪を整えると、うさぎは部屋から出ようとドアに手をかけた。
「あっ、待ってくれ!」
「っ!」
グイッと腕を引かれて、その反動でうさぎは星野の方を振り向く。目が合うと、うさぎの顔がかああっと真っ赤に
染まった。
「おだんご・・・・この間の、続きだけど」
「やっ・・・・」
うさぎは耳を塞ぐ。それを見て、星野は少しむっとした顔になった。
「おい、聞けよ!」
「やっ・・・」
「おだんご!」
力任せにうさぎの顔の横にばん!と手をつく。本がぐらぐらと傾き、うさぎの肩がびくっと跳ね上がる。
「・・・・・・・・・頼むから・・・・・・・・聞いてくれ」
「・・・・・・・・・星野・・・・・・」
「怯えるなよ・・・・・・」
少し震えた声で、星野は言った。うさぎはそんな星野を見て、ずきんと胸が痛んだ。
「ずっと・・・・・・・言いたかったことがある」
「・・・・・・・・・」
「身分違いだって分かってる。あの人に適わないって知ってる。でも・・・・・・・・・」
「俺は・・・・・・・・お前が好きだ」
「あ・・・・・」
うさぎが顔を上げる。そして、星野と目が合って思わず目を逸らそうとするが、星野はうさぎの頬に
手を添える。
「嫌なら・・・・・突き飛ばせ」
自然に、顔が星野の方を向いた。瞳が、星野を捉えた。
星野の瞳が少し閉じたことが合図となるかのように、うさぎの瞳も閉じられ、そっと唇が触れた。
触れたか触れていないか、分からないほどの口付け。それでも、合わさった唇が熱くてしょうがなかった。
「・・・・・・・・・」
星野は顔を背け、うさぎを残し部屋を出て行った。うさぎは背中を本棚に預け、そのままずるずるとしゃがみ
こんだ。
数週間前は額。そして、今度は唇。
ぽたりと、涙が零れ落ちた。
悲しいのか辛いのか、分からなかった。
しかし、唯一つ、はっきりしたことがあった。
「星野・・・・・・」
嫌じゃ、なかったの。
星野、私ね。キスされたこと、全然嫌じゃなかったんだよ。
どうして・・・・・変だよ。どうして?
自分の気持ちが、もう分からない。
2
帰り道、とぼとぼといつものメンバーで歩いていると、校門の所に星野がいた。
もうとっくに帰ったものと思っていたのに、とうさぎは驚いた顔を見せる。
星野はうさぎに気づく。そして、ゆっくりと近づいてきた。
「おだんご、あのさ・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・これ、お前にやる」
「え・・・?」
星野から渡された一通の封筒。うさぎは不思議に思いながらも、それを受け取る。
「必ず、来てほしい。必ずだ」
それだけ言うと、星野は背を向けて、走っていってしまった。一部始終をみていた美奈子達は
目をぱちくりさせる。
「なんだったのかしら・・・・」
「うさぎちゃん、なにもらったの?」
「え・・・・さぁ」
「あけてみたら?」
「う、うん・・・・・・」
封筒の封を切って、中に入っているものを取り出す。それは、今度のスリーライツのライブの
チケットだった。
「あああああっ!!販売終了したライブチケット!」
「それも、5枚も・・・・!」
中に入っていた5枚のライブチケット。それを握り締めて、うさぎは星野の走っていった方向を
見つめたのだった。
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