私は、未来を知ってるから
だから、ダメなの
唄を聴かせて 6
スリーライツライブ当日。うさぎを含むセーラーチーム5人が会場にやってきた。
「うっわー、すごい人。それにしても、急だったのによく会場の予約なんて取れたわね」
「それだけ評判がすごいってことよ。それにしてもラッキーだったわね。絶対来れないと思ってたのに、こうして
チケットが手に入っちゃったんだもん。それも最前列!」
「ホントホント。星野君に感謝しなきゃ」
星野の名前が出て、うさぎはびくっと震える。
本当は、来るつもりはなかった。仕事で忙しく、学校にこれない星野に安心していたのに。
会うのが、怖かったのだ。
しかし、あのまっすぐな瞳で必ず来てくれ、という言葉を思い出すと、家でじっとしてなんていられなかった。
それに、自分の気持ちをちゃんと星野に伝えなければいけない。そう思うとなおさらだ。
「さ、行きましょ」
「ええ」
5人で入り口に行く。そして係員にチケットを見せる。すると、それを処理していた係員の手が止まる。うさぎは
きょとんと首をかしげた。
「もしかして、あなた月野うさぎさん?」
「え?あ・・・はい、そうですけど」
「そう。じゃあこちらへお願いできますか?」
「え?」
「うさぎー」
レイの声が聞こえた。しかし、もう人ごみに流されてしまっている。
「あ・・・・」
「お友達の方には後で私のほうから伝えておきますので。とりあえずこちらへ来ていただけますか?」
「えっ、ちょっとなんなんですか?」
うろたえるうさぎの耳に、こそりと係員は伝えた。
「星野さんが、お呼びなんです」
「えっ・・・・?」
2
「失礼します」
かちゃりとドアが開く。中にはスリーライツのメンバーがずらりと揃っていた。しかも、ステージ衣装をしっかり
着込んでいて、思わずドキッとしてしまうほどカッコよかった。
「星野さん、こちらの方ですよね?」
「ああ、ありがとう。悪かったな」
「いえ。じゃ、失礼します」
ぺこりと頭を下げると、係員は部屋を出て行った。すると、夜天がため息をつきながら立ち上がった。
「じゃ、僕たちは先にステージの方行ってるから」
「遅れないでくださいね」
「ああ」
夜天と大気が部屋から出て行く。パタン、という音の後、途端に静かになった部屋に、うさぎは戸惑う。
「とりあえず、座れよ」
「あ・・・・うん」
うさぎは近くにあったパイプイスに腰を下ろす。
「一体どういうことなの?」
「驚かせただろ?悪かったな。実はさ、このチケットにちょっとした仕掛けをして置いたんだ」
「仕掛け?」
「ほら、ここ」
ぴらっとチケットの裏面を見せ、チケットの端の方を指差した。そこには小さく、うさぎのマークが書かれていた。
「あ・・・・」
「おだんごに渡したチケット全部に書いておいたんだ。で、受付の係員にこのマークがついているチケットを
持ってる、金髪のおだんご頭の女の子がいたら、ここに連れてきてくれって伝えておいたわけ」
パチン、と悪戯っぽくウインクをする。それをみて思わずドキッとなってしまったが、それを慌てて振り払った。
「・・・・悪かったよ。こんな強引なことして。でもさ、なかなか時間が取れなくて・・・・こうでもしないと二人きりに
なれないと思ったんだ」
「・・・・ううん。私も星野に会って、ちゃんと言わなきゃって思ってたから」
きゅ、と手を握りこむと、俯いていた顔を上げて星野を見た。
「・・・・・好きっていってくれて、ありがとう。私には勿体無いくらいの言葉だった」
「・・・・・・・・・」
「だってさ、天下のスリーライツの・・・・しかも一番人気の星野が私のこと好きなんて・・・・・ホント、信じられ
ないことだもん」
「・・・・・・馬鹿」
星野は苦笑する。うさぎも笑うが、すぐに表情に影を落とした。
「・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・ごめんなさい」
「・・・・・・・・・・」
「私は、星野を好きにはなれない。・・・・・・まもちゃんが、いるから」
「・・・・・・・・・うん」
「私は、未来を知ってる。まもちゃんと結婚した私・・・・・そして、ちびうさの存在。私は、まもちゃんとちびうさが
大好き。未来でまた会いたい。命を、与えたいの。だから・・・・ダメなの」
「・・・・・・・・・そっか」
「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
うさぎは深く頭を下げる。すると、星野がぽん、とうさぎの肩を叩いた。
「馬鹿、なに謝ってんだ。・・・・・・俺の方こそ、ごめんな。苦しめたよな」
うさぎは首を横に振る。
「そんなことない。好きっていってくれたの・・・・・・・嬉しかった」
「・・・・・・・サンキュ」
星野が笑ってうさぎの頭を撫でた。
その、大きな手。衛とは、また違う感触。こんな風に思ったのは、初めてじゃなかった。
「・・・・・・・・あのさ」
「なぁに?」
「我侭ついでに、もう一つ俺の我侭、聞いてくれねえか?これが・・・・・・・最後だ」
「・・・・・・・・うん」
「俺のライブ、見てほしいんだ。今日の・・・・一曲でいい。俺が最初に歌う歌だけでもいいから」
「う・・・・・・うん。ライブは、見るつもりだったけど・・・・・・でも、どうして?」
「・・・・・・・今日の歌は、特別なんだ」
星野はそれだけ行って黙ってしまった。そして時間になったので星野は呼ばれ、うさぎも観客席の
方へと戻っていった。
そこまで走るとき、息が切れて、顔が熱くなって、苦しかった。
そして、瞳から熱いものが零れ落ちてきて、うさぎは手で口を覆ってしゃがみこんだ。
「これで、よかったんだよね・・・・?」
本当は、分かってた。私、星野に惹かれてた。
でも、この気持ちがなんなのか、分からなかったの。だから、ああ答えるしかなかった。
でも、あの気持ちに嘘なんかない。私は、あの未来を裏切れない。未来を変えてしまうなんて出来ない。
だから、これでよかったの。
「そうなんだよね・・・・?」
答えてくれる人なんていない。でも、問わずにはいられなかった。
3
星野がステージの方へ入ると、それに夜天と大気が気づき振り向く。
「星野」
「どうだった?」
到着してすぐ、夜天が聞く。星野は苦笑すると、夜天の頭をくしゃっと撫でた。
「・・・・振られた」
「・・・・・・・そ。だからやめときゃよかったのに」
「いいんだよ。俺が伝えたかっただけだから」
「でしたら、ライブの方、変更しますか?あれ・・・・・・・」
「いや、変更はナシだ。このままいく」
「・・・・・分かりました」
大気が微笑むと、星野もにっと笑う。そして、少し乱れた髪をぐいとかきあげた。
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