夢を魅せて 3
「・・・・・・・・いや・・・・・・・・星野ってば」
「・・・・え?」
すい、と顔を上げると、うさぎが心配そうに星野を見下ろしている。
「おだんご・・・・・」
「どーしたの?ぼーっとしちゃって・・・・もうすぐ授業始まるよ?」
「・・・・・ああ、そっか。悪い」
にこ、と笑う星野の笑顔にはいつもの元気がなかった。うさぎはバツが悪そうな顔をする。
「・・・・・・・ねえ、星野」
「ん?」
「元気がないのって、私のせい?」
「え?」
「ホラ・・・・その、昨日私、星野のことひっぱたいて帰っちゃったじゃない?だから・・・・その・・・・」
いいにくそうな顔で目を逸らす。星野はきょとんとした顔を見せたが、すぐにぷっと吹き出して笑い、うさぎの頭を
ポンッと叩いた。
「ばか、そんなんじゃねーよ」
「ホント?」
「ああ。・・・・・・でも、ちょっと疲れてるのは、確かなんだ。悪いけど、保健室で休んでるから、先生には適当に言っと
いてくれるか?」
「そっか。ふふっ、りょーかい」
うさぎはぴっと敬礼をしながら笑う。サンキュ、と呟いて星野は教室を出て行った。
教室のドアを閉め、一人佇む。
その時思い浮かぶのは、ただ一人の、愛しい人。
2
「仕事以外で授業をサボるのは、感心しませんね」
保健室ではなく、屋上に足を運んだ星野の元に現れたのは、大気と夜天の二人。星野は二人に目を向け、
そっちこそと笑った。
「星野・・・・」
「ん?」
「やっぱり、堪えていますね。昨日のこと・・・・・・・・」
「・・・・・・・そう・・・・かもな」
空を見上げながら、星野は呟いた。夜天は星野の目線にあわせてしゃがみこむ。
「実際、星野はどうしたいのさ」
「どう・・・って?」
「だから・・・・・ここに残りたいのかってこと」
大きな瞳でじっと星野を見ながら夜天は言う。星野はその言葉を受け止め、一瞬表情が曇るが、すぐに
ふっと笑った。
「何言ってんだ。そんなわけないだろ」
「星野・・・・・」
「・・・・・俺は、プリンセスを守る守護戦士だ。その俺が、プリンセスの元を離れ、ここで暮らすなんてありえ
ないだろう」
「じゃあ・・・・あのこはどうするのさ。・・・・・・月野・・・・・・うさぎは」
「・・・・・・・・・」
「星野、考えてなかったの?あの子に告白した時・・・・・あの子と付き合うようになった時・・・・・いつかはこんな
日が来るって、分かってたはずだろう?なのに・・・・・」
「うん・・・・・そうだよな」
星野は膝に顔を埋める。
「最低だな・・・・・俺」
「星野・・・・・」
「アイツのこと・・・・泣かせるって、分かってたはずなのに。なのに・・・・・・」
「・・・・・・・」
「初めて気づいた。アイツと離れるってことが・・・・・・・こんなにも、辛いなんて」
「星野・・・・・・・だったら」
「でも、それとこれとは話が別だ」
星野はきっぱりとそう言って立ち上がった。
「俺は、いつでもプリンセスの側にいる。それは絶対の誓いだ。だから・・・・・あいつには、ちゃんと別れを
言う」
「・・・・・・・いいの?」
「いいも何も、それが俺の生きる道なんだ。そうするのは、当たり前だろう」
星野は笑うと、ひらひらと手を振りながら屋上を出て行った。夜天は星野の後ろ姿を見つめながら、ため
息をついた。
「・・・・・ばか星野」
「・・・・・本当に」
3
「せーいやっ」
放課後、星野の元にうさぎが駆け寄ってくる。
「ね、一緒に帰ろ。今日、仕事ないんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
「?星野?」
様子のおかしい星野に、うさぎは首を傾げる。すると星野はがたんと音を立てて立ち上がり、うさぎの横を
通り過ぎ、すたすたと歩いていってしまった。
「えっ、星野?」
驚いた顔で、うさぎは星野の後を追う。
「ねえ、どうしたの?」
「・・・・・・・おだんご」
「ん?」
「話があるんだ。今日の夜・・・・・一の橋公園に、いいか?」
「え?うん・・・・でもなんで夜?」
「人がいない方がいいから・・・・・・」
「なんか・・・・深刻な話?・・・・・・・分かった。一の橋公園ね?」
「・・・・・サンキュ。じゃあ、夜・・・・9時頃、待ってるから」
星野はそう言って、すたすたと歩いていってしまった。その時、一瞬見えた星野の表情。あの表情が
うさぎの頭から離れなかった。
「星野・・・?」
いつもとは明らかに違う星野。それに、不安を感じられずには、いられなかった。
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